赤字経営から年商2000万円へ 「原価って何?」から始まった革職人の“納得される値上げ”(4/4 ページ)
赤字経営に苦しんだ、沖縄の小さな革工房は「値上げ」によって年商2000万円を実現した。客離れも懸念されたが、どのように乗り越えたのか?
「原価」に対する理解の深まりがもたらした変化
値上げした商品の中には、先述したショルダーバッグやスマートフォンケースのように、価格を2倍超に設定したものもある。値上げで客離れが起こるかもしれないという心配は、杞憂(きゆう)に終わった。目立った客離れは起きなかったのだ。なぜか。
「製造原価についての理解が深まったので、一つ一つの商品にかかる材料費や時間、工程を顧客に細かく説明できるようになったんです。オーダーメイド商品の方が高い理由についても、パターンを新しく作る手間や、相談に要する時間が多いことなどを伝えれば、ちゃんと納得してもらえました」
もちろん、値上げ後も需要を維持できた背景には、こだわりの材料や丁寧な手仕事に裏打ちされた品質の高さがある。その土台の上に説得力のある価格設定が乗れば、顧客の納得感につながるのもうなずける。事業者としての信頼度の向上につながった面もあったのか、オーダーメイド商品の受注はその後、むしろ増えていった。昨年も前年比で40件増の380件を受注したという。
さらに、原価管理の精度と言語化能力が高まったことで、顧客とのやり取りに臨機応変さも加わった。
「例えば、オーダーメイド商品を作る時、見積価格から『もう少し安くできませんか?』と言われたら、状況に応じて原価のどの部分を落とせるかを考えられるようになりました。『新しく作るパターンを定番商品として使用させてもらっていいなら、パターンにかかる代金はもらいません』とか。こういうやり取りは、以前だとできていませんでしたね」
価格改定から程なくして月商は常時100万円を超えるようになり、黒字に転じた。2年ほど前から単価が高いカバンのラインアップを充実させたことで、昨年は平均170万円規模まで拡大。クリスマスシーズンで最大の繁忙期である12月は、過去最多の250万円超えを達成した。年商でも、昨年は初めて2000万円の大台に乗った。地元客、観光客を問わず、需要は増加傾向にある。
現在の原価率は33%程度。近年は、手元に残る資金が年間で100万円を超えることもあるという。
収益構造が改善すれば、働き方にも前向きな変化が生まれるのは自然な流れだ。以前は自身とスタッフ2人で運営していたが、昨年からはスタッフを4人雇うまでに体制が充実。それぞれが定番商品の製作を担えるまでに成長し、山城さんは休日を確保しながら、難度の高いオーダーメイド商品の製造や新商品開発により注力できるようになった。
昨年12月には、初めてスタッフに1カ月分のボーナスを支給。事業の成長が雇用の安定、技術力の蓄積に結びつき始めている。
原材料高などを背景に、価格転嫁が避けられないいま、山城さんが実践した「原価の見える化」と「改定根拠の明示」の重要性が一段と高まっている。人手や時間が限られた小規模事業者ほど難易度は高いが、事業の持続可能性を高める上では、優先的に取り組むべきテーマの一つと言えるだろう。
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