「損したくない」で無料に向かう「お散歩界隈」 マーケティングの販促の前提が揺らぐ:廣瀬涼「エンタメビジネス研究所」(4/4 ページ)
「おさんぽ界隈」という言葉をご存じだろうか。彼らの存在によって、企業におけるマーケティングの「販促」の前提が揺らぐ可能性がある。そのワケを解説する。
サンプル配布が抱える構造的な課題
本稿で見てきたように、「おさんぽ界隈」の行動は単なる“無料サンプル収集”ではなく、SNSによる欲望の可視化・模倣・承認欲求が複雑に絡み合った現象であると筆者は考える。消費者は「興味があるから行く・もらいに行く」のではなく、「タダだから行く」延いては「損をしたくない」「他者の欲望に取り残されたくない」という心理によって行動していると思われる。
この構造は、美容業界に限らず、あらゆる業界のマーケティング施策に影響を及ぼす。サンプル配布施策では、基本的に配布対象を企画側が選別することはできない。キャンペーン期間中に「受け取りたい」という意思を示した人には、等しくサンプルを受け取る権利があると解釈されるためである。もし一部の人だけが受け取れない状況が生じれば、「誰でも受け取れる」として実施している施策との整合性が取れず、不公平感を生む可能性もある。そのため、配布対象を恣意(しい)的に制限することは難しく、設計上の課題となりやすい。
かといって、会員制や条件付き配布に切り替えてしまうと、ブランドとの接点が少ない層との新たな出合いを生み出すという本来の目的が損なわれてしまう。サンプル配布という手法そのものが、必ずしも次の購買やファン化につながるとは限らないという構造的な課題を抱えているのである。
今回取り上げた「おさんぽ界隈」についても、決して全ての参加者が問題を引き起こしているわけではない。多くの人はルールの範囲内で楽しんでおり、界隈そのものが悪いという話ではない。課題となるのは、ごく一部の行動が混雑や取り合い、転売といったトラブルや企画側の意図していない使われ方につながってしまう点である。
とはいえ、どこからが迷惑行為に当たるのか、何が許容範囲なのかは人によって判断が分かれる部分でもある。界隈の特性上、明確な線引きをすることは難しく、企業側にとっても対応が悩ましい領域だといえる。
著者紹介:廣瀬涼
1989年生まれ、静岡県出身。2019年、大学院博士課程在学中にニッセイ基礎研究所に研究員として入社。専門は現代消費文化論。「オタクの消費」を主なテーマとし、10年以上、彼らの消費欲求の源泉を研究。若者(Z世代)の消費文化についても講演や各種メディアで発表を行っている。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」、TBS「マツコの知らない世界」、TBS「新・情報7daysニュースキャスター」などで製作協力。本人は生粋のディズニーオタク。瀬の「頁」は正しくは「刀に貝」。
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