20代の4人に1人が「カスハラを知らない」現実 国や企業が見落としている対策の第一歩とは:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
さまざまな背景から社会的な問題として浸透したカスハラ。今年10月にはいわゆる「カスハラ防止法」が施行される見込みです。そんな中、労働政策審議会の分科会が示したカスハラの定義が複雑であることをご存知でしょうか。
調査結果から分かるリテラシーの重要性
実際、全国に先駆け「カスハラ防止条例」を成立し、2025年4月に施行した東京都の調査でも、リテラシーの重要性が指摘されています。
「カスタマーハラスメント対策として、行政にどのようなことを望みますか」との問いに、「カスハラ防止条例の認知度向上」が 36.3%で最も多く、次いで「カスハラ防止策の普及啓発」が27.6%、「企業のカスハラ防止対策の支援」が20.7%となっていたのです。
さらに、この調査では興味深いリアルも浮き彫りになりました。
「あなたは、カスタマーハラスメント(カスハラ)という言葉を聞いたことがありますか」との問いに、経験値の少なさから被害者リスクの高い、若い世代ほど認知度が低いことが分かりました。30歳以上では、認知度(「言葉も意味も知っている」「言葉は聞いたことがあり、意味もなんとなく知っている」の計)が80%以上だったのに対し、20代の4人に1人が「言葉を聞いたこともない」「言葉は聞いたことあるが、意味は知らない」と回答したのです。
「カスハラ」のような新しい言葉が生まれるのは、その言葉がよく当てはまる問題があっちこっちで起こり、何らかの共通ワードが求められるからにほかなりません。「助けて!」とSOSを出したいのに、「そこに何もない」かのごとく無視され、「仕方がない」と諦めたり、泣き寝入りしたりしていた人たちを、共通ワードがあれば救うことができます。
20代の4人に1人しか「カスハラ」を知らないという現実を、国や企業は重く受け止めるべきです。国は実効性ある周知を、企業は「客より社員を守る」仕組みを。そして管理職は、部下の我慢を「スキル不足」と片付けず、違和感があればすぐ割って入る。その「一歩前に出る勇気」を持ってください。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) 、『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)など。
新刊『「老害」と呼ばれたくない私たち 大人が尊重されない時代のミドル社員の新しい働き方』(日経BP 日本経済新聞出版)発売中。
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