推し活は「推される体験」へ 観客に囲まれる”渋谷の新感覚カラオケ”の秀逸さ:廣瀬涼「エンタメビジネス研究所」(1/4 ページ)
2025年に一風変わったカラオケ店「VSING(ブイシング)」が渋谷に誕生した。推し活時代における、その施設の「秀逸さ」を深堀りしていく。
推し活は、いま「推す文化」から「推される体験」へと拡張し始めている。そうした変化を象徴する存在が、東京・渋谷にあるカラオケステージ&バー「VSING(ブイシング)」だ。
そこでは客がステージに立ち、観客に囲まれながら歌う。サイリウムが振られ、専用アプリを通じて「Cheer(チアー)」と呼ばれるデジタルギフトが送られる。その演出は店内の大型LEDに投影され、場の盛り上がりが可視化される。
普通のカラオケと異なるのは、歌い手がプロではなく、一般の利用者という点だ。VSINGは「推す側」だった人が、「推される側」を疑似体験できる空間なのだ。
なぜ今、こうした場が成立するのか。その背景にある、推し活の広がりと、質的変化を見ていこう。
“一億総推し社会”とヒト消費
まずは「推し活」という活動が活発化した理由と、現在のあり方について紹介したい。
かつてアイドルオタク界隈で用いられてきた「推し」という言葉は、いまや広く一般化した。特定の芸能人やキャラクターを継続的に応援する、推し活は単なる消費を超え、自己確認や心の拠りどころとして機能している。誰もが、何らかの推す対象を持つ現代は”一億総推し社会”とも形容できるかもしれない。
推し活ブームの拡大には新型コロナウイルス感染症の流行も一定の影響を与えたと、筆者は考えている。消費者は自ら現場に足を運び体験することで価値を見いだす「コト消費」や「トキ消費」の機会を制限された。
実際、日本トレンドリサーチが実施した調査によると、コロナ禍の自粛によって「できなくなった趣味がある」と回答した人は42.6%に上っている。
さらにコロナ禍では、ストリーミングサービスの利用が拡大し、自宅で完結するコンテンツ消費が一般化した。ドラマの一気見や、特定の俳優の出演作を順に追うといった視聴スタイルが広がったほか、アイドルグループなどのオーディション番組の普及も進んだ。視聴者が出演者の成長過程を追い、応援する体験は、推し活の活性化のすそ野を広げた。
過去には「コロナ禍で推し活を始めた」といった、コロナと推し活の結び付きを示す調査もみられた(参照:「“おひさしぶり消費”と“はじめまして消費”」)。
このような背景を踏まえ、筆者は現代の消費潮流は「ヒト消費」にあると考えている。商品やサービスそのものではなく、「誰を応援するか」「誰にひも付いているか」といった“人”を媒介とする消費に再編成されつつある。
SHIBUYA109lab.の研究所所長の長田麻衣氏は、若者消費を特徴づける4つのキーワードとして、(1)体験消費・参加型消費、(2)間違えたくない消費、(3)メリハリ消費、(4)応援消費・親近感消費を挙げている。とりわけ(4)の応援消費は、推し活との親和性が高く、ヒトを起点とする消費行動の広がりを象徴する概念といえる。
こうした消費は、商品やサービスの機能や価格ではなく、特定の人物への共感や支持といった感情を起点に生まれる点に特徴がある。応援消費はまさにその典型であり、「その人を支えたい」という思いが購買行動を後押ししている。
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