160年続く老舗せんべい屋が「売上の半分」を手放して得た余白とは――6代目が決めた“攻めの撤退”:「撤退」の論理(2/3 ページ)
売り上げは全盛期の半分。それでも経営はむしろ健全になった──。岐阜の老舗「田中屋せんべい総本家」は、営業部廃止や不採算事業の整理など大胆な撤退を決断した。サンクコストの呪縛を断ち切り、企業を再生させた6代目の経営哲学に迫る。
「営業部」を廃止し、リソースを「作ること」に集中
特筆すべきは、同社が「売り込むための機能」を捨てた点である。同社の営業部は、近隣の総合スーパーなどを回る御用聞きが主な業務だった。しかし、そこは過酷な価格競争の世界であり、思うような成果は上げられていなかった。
「BtoBの売り上げは全体の1〜2割に過ぎません。そのわずかな売り上げのために営業リソースを割き、安売り競争に加担するのは本質的ではないと判断しました。営業担当者には製造現場に移ってもらい、まずは『自分たちの手で納得のいくクオリティーのものを作る』体制を整えることに注力しました」
また、主な販売先を百貨店に切り替え、「良いものを良い値段で」売る方針に切り替えた。この営業は田中氏自らが行った。
「せんべいは、高級なお菓子というイメージはないじゃないですか。でも、手間暇かけて作った品質が高いものを、クッキーの半分の値段で売るのはくやしかったんです」と田中氏は話す。商品パッケージやWebサイトも、価値に見合ったデザインに磨き上げた。
売上高は、2001年を100とすると、現在は55まで減少したという。しかし、これは「敗北」ではなく、利益の出ない商売や過剰な拡大路線からの「意図的な撤退」の結果である。田中氏は「一番のミッションは『つなぐ』こと。利益を上げたり売り上げを大きくすることはミッションではない」と断言する。
160年以上続いている事業で、前年より売り上げが落ちる年があっても無理もない。そうした短期的な数字よりも「50年後、100年後もこの事業が存続しているか」という視点を、経営判断の唯一のものさしに据えたという。
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