火葬炉の中に入って分かった、火葬場経営を苦しめる「見えないコスト」の正体:スピン経済の歩き方(6/7 ページ)
東京都内で6つの斎場(火葬場)を運営する東京博善。その「火葬炉の中」に入って分かった、経営に最も打撃を与えている「見えないコスト」の正体とは――。
ベテランになっても慣れない仕事
ただ、どれほど経験を積んでベテランになっても対処が難しい遺体があるという。それは火葬技術的な問題ではなく、メンタル面での困難さである。
「小さなお子さんのご遺体ですね。例えば、胎児の火葬はどれだけ経験を積んでいても精神的にやられてしまいます。きれいなご遺骨を残すために、大人と同じくらい時間をかけてゆっくり火を入れるんですが、そのときは本当に神経も使いますし、ご遺族の悲しみを思うといたたまれません」
ちなみに、胎児の場合は朝一番の火葬と決まっている。なぜかというと、遺体が小さいので、職員が炉の中に入って安置しなければならないからだ。炉は最高1200度にも達して冷却まで時間がかかるため、朝一番でなければ中に入ることはできない。
「交通事故で亡くなった小さなお子さんを火葬したときも、本当に辛かったです。私の子どもと同じくらいだったので……。こればかりは、どれほどベテランになっても慣れるものではありません」(斎場責任者)
未来のある子どもたちが亡くなってしまうという直視しがたい現実、そして遺族の深い悲しみや絶望を目の当たりにすることで、現場の職員たちのメンタルが疲弊してしまう。これも東京博善の「見えないコスト」だ。前出の経営幹部も言う。
「そんな精神的に大変なこともある仕事なのに、この社会で誰かがやらないといけないからと、火葬炉の裏で働いてくれている従業員たちには感謝しかありません。会社として心がけているのは、面接の段階でこのような精神的に大変な場面に遭遇する可能性があることもしっかりと説明して、ご本人はもちろんご家族も納得した上で、この仕事についていただくということです」
今、東京博善は人材採用で面接後に「トライアル」として3日間、火葬炉の裏や斎場での仕事を見学してもらう期間を設けている。そのような取り組みを続けてきたこともあって最近、少しずつではあるが、火葬職人の定着も進んでいる。中には「火葬場で働きたかった」という志をもって、面接にやって来た人もいるという。
「実は女性の火葬職人も入って、がんばってもらっています。火葬職人の世界は男性が多いイメージですが、今後は女性にも積極的に採用を広げていきたいと思っています」(経営幹部)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
富士そば「外国人観光客お断り」は悪なのか 立ち食いそば騒動が問いかけた現実
庶民の味方である立ち食いそばに、外国人観光客が押し寄せる現象が起きている。外国人観光客お断りを示す店舗もあるが、「そば」が本当の意味でも世界に愛される日本食になるためにできることとは。
「中国資本が火葬料を釣り上げている」は本当か 東京博善の社長に聞いた、“風評被害”の実態
火葬料金の値上げが話題になっている東京博善だが、なぜこのタイミングで「夕刻葬」に踏み切ったのか。社長に聞いてみると……。
なぜ大阪と浅草でニュースが“逆”になるのか 中国人観光客報道の舞台裏
中国政府による「日本観光自粛」の影響が、報道するメディアによって真逆の内容になっている。なぜこのような事態が起きているのかというと……。
角上魚類が回転寿司チェーンの“強敵”になる、これだけの理由
「回転寿司より安くてうまいパック寿司」として、渋滞するほど人気を集めている角上魚類。今後、回転寿司チェーンの大きなライバルになっていきそうだ。なぜそう思うかというと……。
