「黒字撤退」はなぜできたのか? 長靴メーカーが「Oリング専業」に転じた理由(2/4 ページ)
1970年代初頭、黒字だった「子ども用ゴム長靴」の事業から撤退した森清化工。その後、強豪がひしめく「Oリング」市場に参入する。なぜ中小企業がそのような意思決定をしたのか?
時代と環境の変化をいち早く察知し、黒字事業を畳む
森清化工は当時、子ども用長靴メーカーとして成功を収めていた。黒い長靴が主流だった時代に、カラフルな色のラインアップとサイズ展開で差別化を図り、黒字経営を続けていた。
しかし、時代とともに環境は徐々に変化していく。当時は舗装されていない泥道が多く、雨の日には長靴を履く機会が多かったが、徐々にアスファルトで整備された道路が増えていった。そして、長靴の素材はゴムから樹脂へと移り変わろうとしていた。
ゴム長靴は布の周りにゴムを張って成形するという職人の手作業が必要になる。その技術が森清化工にはあった。しかし、当時、金型を使えば樹脂製の長靴を製造できるドイツ製の機械が輸入され始めていた。当時の価格で約1億円、現在の価値に換算すると4億円を超える機械だった。中小企業が容易に手を出せる金額ではなかった。
「祖父は、資本力のある大企業がこの製造機械を使えば、いずれ樹脂の長靴が大量生産され、市場を独占する。ゴムの長靴は衰退を迎えると考えたそうです。違う道を見つけるなら早い方がいい。即座にゴム長靴事業からの撤退を決めました」
次の事業の構想もまだない段階で、突然の事業撤退。問屋や仕入れ先はこぞって反対し、代わる代わる説得に訪れたという。それでも、初代オーナーの決断が覆ることはなかった。
「黒字経営でキャッシュもあったため、買掛金の支払いをきれいに済ませ、一切の不義理をせずに商売を畳みました。60人近くの従業員に対しても、同業の工場や問屋を紹介するなど、失業せずに新しい道を探せるように手配したそうです」
毛利氏から見て、初代オーナーはどのような人物だったのだろうか。
「周囲からは、後先を考えずに大胆なことをやる人と言われることが多い人でした。しかし、近くでその背中を見ていた私からすると、非常に熟考する人でした。熟考した意思決定は絶対に曲げない人でもありました」
初代は「中小企業は、企業ではなく『家業』だ」とよく口にしていた。
「任期のある大企業の社長は、数年〜10年ほどの先を見通して意思決定をします。しかし、中小企業は次の世代につないでいく必要があるからこそ、20〜30年先を見据えた中長期的な戦略が必要です。短期的な利益を追うのではなく、次の代で商売が確立できるような先行投資をしておく。それが、企業と家業の違いだと捉えています」
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