「黒字撤退」はなぜできたのか? 長靴メーカーが「Oリング専業」に転じた理由(4/4 ページ)
1970年代初頭、黒字だった「子ども用ゴム長靴」の事業から撤退した森清化工。その後、強豪がひしめく「Oリング」市場に参入する。なぜ中小企業がそのような意思決定をしたのか?
「高品質、品ぞろえ、即納」を守るための選択と集中
森清化工が、創業から70年以上経った今でも大切にしている三原則がある。それは「高品質、品ぞろえ、即納」だ。
「品質が良くても品ぞろえが悪く、即納できなければ意味がないですし、品ぞろえがよくても低品質では成り立ちません。この三つのバランスを常に保ち、達成することが当社の文化です」
同社はこの三原則を守りながら、時代に合わせて自社のブランドを極め、柔軟に変化している。その流れを組んでいるのが、毛利氏が副社長を務めていた約10年前に行ったOリングの専業メーカーになるという決断だ。
「ゴム製造会社としてさまざまな製品を作ってきましたが、ネット社会になっていくにつれて『何をやっている会社か分かりづらい』と言われることが増えてきました。そこで、自社のブランディングを徹底するために、Oリング以外のゴム製品の製造をやめました」
「さまざまなゴム製品を製造している」より、「Oリングを極めている」方が、顧客に伝わりやすいと考えた結果だった。その後も同社は開発技術を磨き続け、高い信頼性が求められる分野で同社のOリングが採用されている。
目先の利益に捉われず、自社の強みを尖らせる。初代の「撤退の論理」は、現在の経営にも脈々と受け継がれている。変化の激しい時代における撤退の決断について、毛利氏はこう語る。
「最大の壁は、過去の成功事例にとらわれることです。『あの時は売れたから』『これだけコストをかけたから』と固執してしまうと、本質が見えなくなってしまいます。初代は自社ブランドを生かせる市場の縮小を予想し、赤字に陥る前に素早く事業を撤退しました」
最後に、毛利氏に今後の展望を聞いた。
「私たちは日本のモノづくりの強さを信じ、海外に生産拠点を作らずに技術力を磨いてきました。地政学的リスクが高まる今、日本でモノづくりを完結できることは、より大きな強みにつながります。100%国内でモノづくりを完結できるOリング専業メーカーとして、今後は宇宙開発や海底油田といった新しい領域にもチャレンジしていきたいと考えています。困難なときこそ自社の強みと信念を持ち、本業から離れずに時代とともにブランドを進化させていきます」
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