中間管理職は「中間経営職」へ AI時代、ホワイトカラーに問われる「役割再定義」(2/3 ページ)
生成AIの登場で企業の雇用と仕事のあり方が変わり始めている。活用の広がりを背景に、人員削減に踏み切る企業も出てきた。こうした中で、人が担う役割はどのように変化するのか。その実態に迫る。
非エンジニアも開発 広がる現場発のAI活用
経営・人事関連の課題解決を支援するリクルートマネジメントソリューションズ(東京都港区)の武藤久美子主任研究員は、日本企業のAI活用について「エンジニアではない社員も『生成AIで作ってみました』と提案するようになってきたのは大きな変化だ」と話す。社内の課題解決に役立つ簡易なアプリケーションを事務系、技術系を問わず個人が面白がって作り出す動きが広がってきたことに注目する。
AIを使いこなす社員が少しずつでも増えていけば、組織全体で大きな力になる。個人が主体的にスキル向上や自らのキャリア形成に取り組む「キャリア自律」も、生成AIの普及で当たり前のこととして受け取られるようになるのではないかと武藤氏はみる。
企業の人事部の変化にも武藤氏は着目する。
人事部は従業員と直接向き合う立場にあり、雇用への影響や労働組合との関係も考慮する必要があるため、AI活用には慎重になりやすい。ところが最近は、人事担当者の姿勢も変わりつつあり、AI活用に前向きに挑戦すべきだという人が増えてきた感触があるという。
人事部もAIを活用する必要に迫られている。働き方改革などを背景に仕事量が増大し、業務効率化が課題になっているためだ。例えば社員一人一人の人事異動の履歴をすぐにつかめるシステムがあれば、人事部員にとって強力な援軍になる。保守的ともいえる人事部でAI活用が進み始めれば、これに刺激されて企業全体のAI利用がスピードアップする可能性もある。
AI時代、人間の仕事とは?
ホワイトカラーの中核業務である情報の収集、加工、整理を担う生成AIの登場は「人は何を担うのか」という問いを突きつけている。
労働政策研究・研修機構が1月8日に開催した労働政策フォーラムでは「デジタル技術の活用と人材育成」をテーマにしたパネル討論があった。そこでの生成AIに関する示唆に富む議論が交わされた。
その具体例の一つが、樹脂製の食器・雑貨や工業部品などを製造販売する石川樹脂工業(石川県加賀市)の取り組みだ。
同社は、ビジネスチャットツール「Slack」や製造部門へのロボットの導入を推進するなどDXに注力しており、生成AIについても「小さく始める」段階をすでに終えて、いかに経営に組み込むかが課題になっている。石川勤専務は生成AIの使い道として「1.意思決定に必要な資料のたたき台作り」「2.論点の抜け漏れの防止」を挙げた。生成AIは、状況を見極めて自分の考えを定める際の、判断の質を高めるツールと位置付けている。
石川専務は、AI時代の人の役割は「問いを立てる」「判断基準を設計する」「最後の意思決定を下す」の3つがあるという。深い問題意識に裏打ちされた問いを具体的かつ明快な表現で発しなければ、求める回答は返ってこない。「判断基準」が必要なのは、たたき台はAIがつくるとしても意思決定を担うのは人間であり、判断を誤らないためには拠り所を明確にする必要があるためだ。これら3つがAI時代の「仕事の定義」というわけだ。
また、部下から上がってきた情報を加工し、それをまた上層部に上げるといった中間管理職の仕事は、大半がなくなるとの考えを示した。
「中間管理職は『中間経営職』になっていく」と石川専務はみている。判断が仕事の中核になることを「経営職」という言葉に込めている。
石川専務は「オイルの匂いの変化から設備の変調をつかむなど、AIには取得できない情報もある」と指摘する。AIが収集できるのは、あくまでWeb上を流通しているデジタル化された二次情報だ。例えば顧客と日々接する中で市場の微妙な変化を察知するなど、現場の最前線で一次情報を獲得できる人材は、AI時代に貴重な存在となる。
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