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下請法より厳しい「取適法」 大企業に突きつけられた価格交渉と“是正勧告ラッシュ”の戦慄(1/3 ページ)

「春の賃上げ」を巡り、中小企業を取り巻く環境が静かに、しかし確実に変わりつつある。2026年1月に施行された「中小受託取引適正化法」(取適法)は、不公正な取引慣行の是正を通じて、中小企業の賃上げを後押しする存在となり得るのか。監視を強める公正取引委員会の動きから、その狙いと企業に求められる対応を読み解く。

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著者:水野裕司

労働ジャーナリスト。2025年末まで日本経済新聞社に在籍し、日経ビジネス副編集長、論説副委員長、編集委員などを務めた。2009〜2021年の12年半、雇用・労働社説を担当。複雑な制度の多いこの分野の解説記事を、できるだけ分かりやすく書くことに努めている。


 「春の賃上げ」を巡り、中小企業を取り巻く環境が変化している――。

 国内雇用の7割を占める中小企業の動向は注目点の一つだ。人件費の高騰や原材料高の負担が重くのしかかり、賃上げは簡単ではない。しかし、そんな中小企業に“強力な援軍”が登場した。「市場の番人」と呼ばれる公正取引委員会だ。

 公取委は、中小企業が賃上げに必要な原資を確保できるよう、企業が過度なコスト負担を取引先に押し付けていないか、取引条件や価格決定のプロセスを中心に監視を強めている。金型や部品を無償で保管させるなど、違法行為がみられる大企業に対し、社名を公表した上で是正を勧告。その件数は近年、急速に増加している。

 親事業者による不公正な取引を禁じる「下請法」を改正し、法律名も刷新して2026年1月1日に施行された「中小受託取引適正化法」(取適法)では、適用対象になる企業や取引の範囲を広げた。

 賃上げ交渉が本格化する「春闘」を前に、大企業は自社の賃上げだけを考えればいいわけではない。中小企業の賃上げを下支えする公正な取引への社会的要請が強まっている。

 公取委が春闘の「陰の主役」となって監視を強める背景には何があるのか。そして、経営者はどんな点に留意すればいいのだろう。

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春闘を前に、中小企業の賃上げを下支えするため公正取引委員会が不公正取引の監視を強めている(提供:ゲッティイメージズ)

勧告件数は4倍以上に 監視を強める公取委

 まずは、公取委の具体的な動きを整理する。

 取適法では、旧下請法時代から、違反行為があった場合に企業名の公表という厳しい措置を伴って是正を求める勧告制度が設けられている。

 対象になるのは「1.下請け代金の減額」「2.発注した物品の受領拒否」「3.取引価格を著しく低く定める『買いたたき』」「4.協賛金や従業員の派遣を求めたり、金型を無償で保管させたりといった『不当な経済上の利益の提供要請』」……などだ。

 公取委による勧告の件数は20〜22年度に各年度4〜6件だったが、23年度に13件、24年度は21件へ増加した。年度途中であるため、25年度の数字は確定していないが、2026年1月末時点ですでに27件に上り、前年度を上回っている。

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勧告件数および自発的申出件数(勧告相当案件)の推移(出所:公正取引委員会「令和6年度における下請法の運用状況および中小事業者等の取引適正化に向けた取り組み」)

 公取委が不正な取引に対して厳格に臨む姿勢を一段と強めていることが分かる。

 問題がある行為が認められた場合に、勧告の前の段階として公取委などが企業に自発的な改善を促す「指導」という仕組みもある。違法となる恐れがあるケースも指導の対象になり、実際に違反行為が発生するのを未然に防ぐ狙いがある。指導の件数はおおむね各年度8000件前後で推移しており、23年度は8268件、24年度も8230件と高い水準にある。

 公取委と中小企業庁は25年4月以降、自動車ディーラーと車体整備事業者の取引、運送事業者同士の取引について、集中的な調査を行った。下請法に基づき、特定の業種・業界を対象に調査を実施したのは初めてだ。その結果、自動車ディーラーと運送事業者に対する勧告はいずれも2件、指導は自動車ディーラーで160件、運送事業者で530件に上った。

 具体的な内容としては、車体の修理や運送の業務を委託する際に発注書を交付しなかったり、受注事業者と協議せずに一方的に代金を据え置いたりという例が多かった。公取委は、発注する側と受注する側の協議の状況など「取引のプロセスを注視する」としており、違反や違反の恐れのある行為に厳正に対処していく構えだ。

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