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下請法より厳しい「取適法」 大企業に突きつけられた価格交渉と“是正勧告ラッシュ”の戦慄(2/3 ページ)

「春の賃上げ」を巡り、中小企業を取り巻く環境が静かに、しかし確実に変わりつつある。2026年1月に施行された「中小受託取引適正化法」(取適法)は、不公正な取引慣行の是正を通じて、中小企業の賃上げを後押しする存在となり得るのか。監視を強める公正取引委員会の動きから、その狙いと企業に求められる対応を読み解く。

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知らなかったでは済まされない「取適法」

 そうした積極姿勢は今回の下請法改正の内容にも表れている。取適法では禁止行為に、「協議に応じない一方的な代金決定」が追加された。これには、必要な説明をせずに取引価格を決めてしまうことも含まれる。価格決定の「プロセス」に切り込んだ。

 これまで下請法は、物流関係では運送事業者同士の取引を適用対象にしていた。しかし、取適法ではこれに加え、荷主の製造会社や小売業者と運送事業者との取引も対象とした。

 運送事業者が荷主の求めで、無償で荷物の積み込み・積み下ろしや「荷待ち」という待機をさせられるケースが後を絶たないためだ。

 どのような規模の企業に法を適用するかの線引きについては、これまでの旧下請法では、業務を発注する側が資本金3億円超、受注する側が3億円以下というように、取引の内容によって資本金の額の基準を定めていた。

 取適法ではこの「資本金基準」のほかに「従業員基準」を新設した。資本金の額の多寡にかかわらず、発注側が従業員数300人超、受注側が300人以下なら適用するというように、取引内容によって法の網をかける従業員数の基準を設けた。保護する中小企業の範囲を広げる狙いがある。

 旧下請法では「指導」や「助言」ができる行政機関は、公取委と中小企業庁のみだったが、加えて事業の所管省庁にこれらの権限を与えた点も取適法の特徴だ。改正点の中では目立たないが、これも監視体制強化の動きとして見逃せない。

中小企業の賃上げは進んでいるのか?

 不公正な取引慣行の是正に向け、公取委は中小企業庁と連携し、動きを活発化させている。狙いは中小企業が発注企業から不当な圧力を受けないようにし、原材料費やエネルギー価格の上昇といったコスト増加分を納入価格に上乗せする「価格転嫁」を進めやすくすることにある。賃金を引き上げやすい環境作りには、価格転嫁の後押しが欠かせない。

 しかし、残念ながら価格転嫁は十分に進んでいないのが実態だ。中小企業庁は25年9〜11月、約7万社の中小企業にアンケート調査を実施し、同年4月から9月末までの間における価格交渉や価格転嫁などの状況を尋ねた(回収率23.3%)。コストが増えた分をどれだけ取引価格に上乗せできたかを示す価格転嫁率は、コスト全体で見ると53.5%と半分程度にとどまっている。

 コストの内容別の価格転嫁率は、原材料費が55.0%、エネルギー費が48.9%、労務費が50.0%となっている。中でも、公取委や中小企業庁が重視するのは労務費の転嫁率だ。人件費の価格転嫁がしやすくなれば、中小企業は思い切った賃上げを決断しやすくなるからだ。

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中小企業のコスト要素別の価格転嫁の状況(出所:中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査結果」)

 労務費の転嫁率を細かく見てみよう。全て転嫁できたという中小企業は27.3%、7〜9割を転嫁できた企業が17.1%。半面、4〜6割と答えた企業は10.1%、1〜3割にとどまる企業は24.2%あり、転嫁が「ゼロ」という企業は20.4%を占めた。「マイナス」つまり納入価格の引き下げを強いられたという企業も0.9%とわずかながら存在した。

 思うように価格転嫁が進まない様子は、25年の中小企業の賃上げに表れた。賃上げムードが強まる中、規模の大きな企業の賃金上昇率は24年を上回ったが、規模の小さな企業の上昇率は前年を下回った。

 厚生労働省が25年7〜8月に実施した「賃金引上げ等の実態に関する調査」によると、基本給の水準を底上げするベースアップ、定期昇給、諸手当の引き上げなどを合わせた1人あたりの賃金改定率は、従業員5000人以上の企業が前年比0.3ポイント増の5.1%、1000〜4999人の企業は0.9ポイント増の5.0%。300〜999人の企業も0.2ポイント増えて4.0%となった。

 しかし、100〜299人の企業は、0.1ポイント減の3.6%にとどまった。中小企業は大企業に比べて収益力が弱い傾向があり、こうした構造が賃金改定状況の差につながっている。加えて、価格転嫁の遅れが賃上げ率の伸びを抑えている面も大きい。

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