フジクラが米ビッグテックに指名買いされる理由 生成AIが伸びると、なぜ「光配線」が儲かるのか:AI革命、日本企業の勝ち筋(3/3 ページ)
生成AIの普及が加速する中、その恩恵を受けているのは半導体やソフトウェア企業だけではない。米ビッグテックから「指名買い」される光ファイバー大手フジクラの岡田直樹社長に、AIの裏側で起きている構造変化を聞いた。
ITバブルの二の舞にならないか――3000億円の投資判断を支えた根拠
SWR/WTCに対するハイパースケーラーからの引き合いは非常に強く「作れば売れる」状態だと岡田社長は話す。
しかし、光ファイバー業界には、同じ状況で痛い目を見た過去がある。2000年代初頭のITバブルだ。光ファイバーの需要が急増し、多くの企業が設備投資に踏み切ったが、バブルは崩壊し、需要は急落した。光ファイバーは投資から稼働まで2〜3年はかかる。タイミングを誤れば巨額の設備が重荷になる。
同様のリスクが意識される中で、なぜ同社は現在のAIブームに対し、最大3000億円という投資に踏み切れたのか。
岡田社長が挙げた根拠はいくつかある。一つがITバブルとの構造的な違い。生成AIは既にマネタイズができている。また、ハイパースケーラーの業績は好調で投資計画も強気だ。米国ではAIインフラ整備が国策として動き始め、AT&Tのような通信大手もデータセンター間をつなぐインフラなどに2030年までに40兆円規模の投資を計画している。
中でも岡田社長が注視しているのは電力確保の動きだ。米国ではデータセンター用にガスタービン発電、さらには原発の新設まで議論されている。
「原発は着工から稼働まで10年近くかかる。今からデータセンターのために原発を建てるということは、関係者が10年先まで需要があると見ているということだ」
もちろん一気には張らない。「最悪のことを考えて、リスクをどれだけヘッジするか。そのバランスで、まずは3000億からだ」と岡田社長は考えを示す。
データセンターの情報伝送量は年率20〜30%で伸びている。30%複利が続けば短時間で3倍規模に拡大するが、保証はない。段階的に投資し、需要を見ながら次の一手を打つ構えだ。
増産できる体制構築のため、全てを自社の光ファイバーで賄うのではなく一部を他社から購入し、自社で加工・ケーブル化する手も打った。ただしSWR/WTCには自社製ファイバーが欠かせない。ハイエンド品は自社製、それ以外は他社から調達する使い分けを、増産期の打ち手としている。
競争優位を生む「戦略ストーリー」とは
旺盛な需要は業績に直結している。フジクラの情報通信事業は2025年4〜12月の直近9カ月で、売上高が前年同期比5割増、営業利益は同87%増と急伸した。通期の連結売上高は初めて1兆円を超え、純利益は5期連続で過去最高を更新する見通しだ。
では、AIデータセンター需要がいずれ一巡したらどうなるのか。
岡田社長自身が語ったように「整備が進むと仕事がなくなる」というインフラビジネスの宿命は、今のフジクラにとって他人事ではない。
その先を見据えた布石として、同社が投資を進めているのが核融合向けの超電導ケーブルだ。核融合炉ではプラズマを閉じ込める強力な磁場が必要で、その磁場を生む超電導コイルに大量の線材が使われる。フジクラが手掛けるのは液体窒素(−196℃)で冷却する高温超電導材だ。
商用発電の実現にはまだ時間がかかるが、欧米ではハイパースケーラーの経営者たちが個人資産を核融合スタートアップに投じ、数千億円規模の資金が動いている。岡田社長も米国の施設を視察した。
商用化の前でも、研究用装置の製造に超電導線材は大量に必要とされる。フジクラにとって超電導は将来の種まきであると同時に、すでに利益を生む商材だ。100億円規模の投資で生産能力の拡大を進めている。
フジクラの経験は「AIブームに乗った会社」の話として片付けられるものではない。従来持っていた“つなぐ”技術が、外部環境の変化によって中核になった。他の企業がここから何を学べるか。
「なんだかんだ言っても、やっぱり勝ち抜かなきゃいけない。ブルーオーシャンで1社だけ悠々と利益が入るということは、ほとんどあり得ない。競合がある中でお客さまに選んでもらえる理由が必要だ」
SWR/WTCはその典型だ。クモの巣状の配列で光ファイバーを高密度に束ねられる。それ自体はケーブルの性能の話にすぎない。しかし、その細さが土木工事を不要にし、トータルコストを下げる。さらに、データセンターの早期稼働という顧客ニーズにも直結する。この点に気付いたことが大きい。
さらに、ケーブルだけでなく、コネクタから融着接続機、施工まで含めたトータルソリューションとして提案した。製品の性能に加えて、顧客の事業スピードを加速させること――ここに競争優位の本質がある。
岡田社長はこれを「戦略ストーリー」と呼ぶ。
自社がAI企業になる必要はない。外部環境が変わったとき、新しく生まれる“詰まり”を見つけ、自分の強みが効く場所に張る。フジクラが光ファイバーの赤字事業から世界トップシェアの高収益事業へと転換できた背景には、その着眼点があった。
特集「AI革命、日本企業の勝ち筋」
生成AIの活用が広がる一方、その裏側では半導体素材、空調・冷却、電力、通信インフラといった領域で、日本企業が着実に存在感を高めている。生成AIサービスを提供する企業だけが主役ではない。昨今、AIインフラを担う企業群にも、注目が集まっている。
生成AI関連市場が盛り上がりを見せる中、どうやって儲かる分野を見極めていくか──。各分野のキープレイヤーへの取材から、自社の戦略や投資判断にも生かせる「勝ち筋」を探る。
第1回:経済産業省
第2回:レゾナック・ホールディングス
第3回:ダイキン工業
第4回:マクニカ
第5回:フジクラ(本記事)
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