静岡の町工場が「きつい・汚い・危険」から脱却 応募者3.5倍の“誇れる現場”になるまで(2/3 ページ)
「工場=3K(きつい・汚い・危険)」というイメージは、今もなお根強い。コプレックは社員1人当たり約18万円の教育投資などを通じて工場で働く人が誇れる環境作りに挑み、求人応募者数を2年で3.5倍に伸ばした。「誇り」を軸にした人的投資は、どのように成果につながったのか。その戦略に迫る。
「道具」と「教育」をセットで提供する
コプレックの人的投資は、その「自由度」に特徴がある。外部セミナーや研修は、業務に直結しない内容であっても、従業員が希望すれば参加できるようにしている。
2018年に全社員へ支給したiPadは、あえてセルラー版にして自宅に持ち帰ることができるようにした。当初、年齢層の高い社員やITに不慣れな社員の中には「支給されても、使い方が分からないから使わない」という人もいた。しかし、家に持ち帰ると孫が興味を示し、一緒に遊ぶうちに使い方を習得して、業務でも活用するようになっていったという。
社内の3Dプリンターやレーザーカッターは、業務外であれば私的な制作活動にも使用が認められている。もともと3Dプリンターの知識がある社員は1〜2人だったが、現在では10人以上が使いこなせるようになり、仕事道具の整理に使うツールなどが、日々作られているという。
ポイントは「道具」と「教育」をセットで用意することだと小林社長。道具のみ提供しても使い方が分からず放置され、教育だけ提供してもアウトプットにつながらない。
「多くの企業が道具を提供できていないように思います。また、道具があっても使用にあたって煩雑な申請を求めがちです。それでは、日常的に使用できない。自由に使えるようにすれば、最初は遊びで使っていた社員が、自発的に3D CADのスキルを習得し、自然と業務効率の向上や新たな提案へと還元されるサイクルが生まれていきます」
この方針の根底には、小林社長が重んじている「知の具現化」という価値観がある。“ものづくり”は、自らの知恵やアイデアを形にする営みだ。しかし、従来の製造業では効率やルールが優先され「余計なことはするな」という空気が強かった。その結果、創造性が発揮されにくくなっていたという。
マニュアルは品質維持に不可欠だが、行き過ぎれば、働く人の自発性や遊び心を奪う。効率だけを追い求めた結果、「ただ作業をこなすだけ」になり、仕事から面白みが消えていく。「道具」と「教育」に自由な風土を加えることで、社員が挑戦できる環境を生み出している。
最初から喜ぶ社員は2割
現在コプレックでは新しい設備を積極的に活用したり、勉強したいテーマの研修への参加を希望したりと社員が自発的に学ぶ文化が根付いている。
もっとも、こうした風土は始めからあったわけではない。新しい設備や教育を用意しても、喜ぶ社員は一部にとどまっていた。例えば、きれいな食堂を作っても喜ぶのは2割程度。残りの8割は無反応だったり、冷ややかだったりする。小林社長は「以前は物足りなさを感じたこともあったが、それが当然だと思うようになった」と話す。
組織には「2・6・2の法則」があると言われるが、これと同様に、目に見えて変化に反応するのは上位2割、様子見が中間6割、そして批判的な層が2割程度出てくるものだという。
重要なのは「中間の6割の変化」だと小林社長。一見、反応していないように見える6割の層も、実は心の奥底で何かが少しずつ変わっている。
「環境を整え、自由を与え、新しい挑戦を応援する。その活動を何年も繰り返していると、ある時、組織の雰囲気が閾値(いきち)を超えます。すると、消極的だった社員が、前向きな姿勢を見せてくれるようになる。最初は効果が分かりにくくても続けることが必要です」
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