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1.7兆ドル巨大ユニコーン「SpaceX」上場への光と影 未上場株市場を蝕むリスク

米SpaceXなどの有力未上場企業において、IPO(新規株式公開)前のセカンダリー市場を通じた株式売買が過熱している。同市場では、特別目的事業体(SPV)や多層的な仲介業者を経由する複雑な取引構造により、実際の株式所有権が不透明になりやすい。上場時に多額の損失や詐欺被害に遭うリスクも懸念されている。実体不明の取引に資金を投じる危うい実態が浮き彫りになっている状況だ。

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 元米Google幹部で起業家のテジポール・バティア氏は、著名実業家イーロン・マスク氏が率いる米宇宙開発企業SpaceXの株式を所有していると信じている。だが、100%確実とは言い切れない。

 バティア氏が2021年に宇宙産業に足を踏み入れた時点で、SpaceXはすでに世界で最も人気のある未上場企業の一つであり、評価額は約750億ドルに達し、株式の大半が初期出資者やマスク氏に近い機関投資家に押さえられていた。バティア氏は直接株式を購入できず、未上場株を売買する仲介業者の緩やかなネットワークが存在するセカンダリー市場に目を向けた。


米宇宙開発企業SpaceXのロケット発射の様子。2025年10月、米テキサス州スターベースで撮影。REUTERS/Steve Nesius

1.7兆ドル上場を前に露呈した「不透明な権利」の危うさ

 今や、SpaceXは年内に評価額約1兆7500億ドルで、新規株式公開(IPO)の準備を進めているとされる。このため、バティア氏は巨額のリターンを手にする可能性がある。ただ、保有株は仲介業者を通じて購入したものであり、所有権の確認が難しい。

 バティア氏は「だまされていないことを願っている。詐欺にあっていないと思っているが、実際のところ確かめる方法はない」と話した。投資額や仲介業者の社名は明かさなかった。

 SpaceXは、上場前に株式を保有することで得られる潜在的な利益が非常に大きいため、多くの投資家がバティア氏と同様にセカンダリー市場でSpaceX株を取得している。ただ、セカンダリー市場の未公開株売買は特別目的事業体(SPV)に頼っており、SPV自体は投資対象企業の株式を保有していない。投資家の資金を集め、将来株式を購入する権利を買う仕組みだ。

 SPV運用者やセカンダリー市場の投資家に助言する弁護士ミッチェル・リットマン氏は「これらの取引は、結局のところ相手方の信用力や評判に依拠するものだ」と指摘。「こうした分野で過度な期待やブームが起きるたびに、必ずと言っていいほど詐欺師がチャンスを嗅ぎつけて現れる」と話した。

 ロイターが取材した10人の投資家や専門家、アナリストによると、SpaceX株は引き合いが非常に強いだけに、投資家は通常では考えにくいほど複雑な仕組みを甘受しているという。

最大5社の仲介が介在、不透明になる所有権

 SpaceXやOpenAIのような、投資家の人気が高い未上場企業の台頭でIPO市場は一変した。今日では、世界で最も価値のある企業の多くが何年も未上場のままとどまりつつ、ブランドの認知度を高め、投資家からの強い需要を生み出している。かつては、急成長するテック企業は比較的早く上場していた。

 その結果、取り残されることを恐れる投資家は、IPO前に株式が売買されるセカンダリー市場に殺到している。需要の急増に伴い、多層的な投資ビークルの活用も増えている。ブローカー2人によると、株式は最大で5つもの仲介業者を経由することがあり、それぞれの業者が手数料を取り、最終的に誰が何を所有しているのかが不透明になっている。

 5億ドル超の資産を運用するファンドマネジャー、ナメク・ズービ氏は「少しルーズになってきている」と話した。詐欺への懸念から、自身は投資家からのSpaceX関連案件への参加要請を断った。「たくさんの投資家が大金を稼ぐだろう。だが、実は株式を全く持っていないと知って驚く人も多く出るのではないか」

 多くのSPV取引では、投資家は自分の直ぐ上の投資主体しか確認できず、最上位に実際の株式が存在するかどうかは分からない。「それでは株式の実在を確信するには不十分だ」と、セカンダリー市場業界のある幹部は述べた。層が増えるほどコストは増し、IPOの潜在的な利益や株価の上昇余地は事実上圧縮される。

 米フロリダ大のジェイ・リッター名誉教授は「最大のリスクは割高な価格で購入してしまうことと、多層構造による手数料だ」と指摘した。

巧妙化する詐欺、上場時に「紙切れ」になる恐れも

 SpaceXの評価額が上昇するにつれて、同社の上場時に多くの投資家が保有しているのは紙切れだけという状況になるのではないかと懸念する声もある。

 近年、IPO前の著名な詐欺事件が相次ぎ、SPVへの監視は強まっている。2025年12月には米防衛新興Anduril Industriesの株式を巡る詐欺事件で金融業者が逮捕された。また2023年にはSpaceXなど複数の企業株式をIPO前に購入できると偽り、50人超の投資家から約600万ドルをだまし取った金融業者に懲役8年の判決が言い渡された。

「乗り遅れたくない」という焦りが招く落とし穴

 投資家と仲介業者を仲立ちすることがあるピーター・ライト氏は2月、アラブ首長国連邦(UAE)の王族の代理を務める別の仲介業者から、顧客がSpaceX株12億ドル相当を即座に取得したいと望んでいると相談されたが、取引は成立しなかった。ライト氏は、仲介業者が2層以上ある取引には関与しない方針で、それは所有権の確認が困難になるためだ。ライト氏は「そうなってしまうとデューデリジェンス(資産査定)は不可能だ」と指摘する。

 ズービ氏は、需要を生んでいるのは基礎的諸条件ではなく、取り残されることへの恐れである場合が少なくないとして「彼らはヨット仲間に『ねえ、俺はSpaceXに投資している。君もかい?』と言いたいのだ」と皮肉った。

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