「AIは使っていない」 Apple50周年、ウォズニアックが語る“人間味”なき技術への違和感
米Apple共同創業者のスティーブ・ウォズニアック氏は、AIの生成物を「完璧すぎて無機質だ」と評し、自身はほぼ利用していないと明かす。実際、調査でも経営幹部の約7割がAI利用を週1時間未満にとどめている。スティーブ・ジョブズ氏やティム・クック氏ら著名起業家たちはデジタル依存に警鐘を鳴らしており、家庭でのスクリーン制限や自然との触れ合いを推奨する逆説的な実態が浮き彫りになっている。
米Appleの共同創業者であるスティーブ・ウォズニアック氏は、AIについて「しばしば失望させられる」と認め、自身はほとんど利用していないと語った。その理由は「あまりにも無味乾燥で、響きが完璧すぎるから」だという。
Appleは4月1日に創業50周年を迎える。この半世紀、同社は8ビットPCの「Apple I」を皮切りに、マッキントッシュ(Macintosh)、iPhone、Apple Watch、AirPodsなどを世に送り出し、約15億人の生活に自社技術を浸透させてきた。
この新たな技術時代の礎を築いたウォズニアック氏だが、現在の彼はむしろ、自然に触れる生活を好むという。彼は最近のCNNのインタビューで「私はテクノロジーからかなり距離を置くようになった」と明かした。「人間の営みよりも、自然の方がはるかに重要だと考えているからだ」
伝説のエンジニアがAIに失望した理由
ウォズニアック氏は1985年までAppleに在籍し、同社の技術革新をけん引した。初期の2モデルに加え、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を普及させた初代マッキントッシュの開発にも深く関わった。この画期的な成果により、コンピューターは専門家以外にも扱いやすいものとなり、大衆への普及が加速した。しかし、デバイスの普及に決定的な役割を果たしたウォズニアック氏でさえ、現在のテクノロジーの潮流に同様の価値を見いだしてはいない。
「私はAIをほとんど使わない」と彼は語る。「AIが生成したものを読むことはあるが、あまりに無機質で完璧すぎる。私は人間らしさを求めているが、結局のところ失望させられることが多いのだ」
テクノロジー業界の多くがAI開発競争に血眼になる中、Appleは比較的慎重な姿勢を保っている。2025会計年度のAI関連設備投資は、127億ドル(約2兆円)にとどまり、米Microsoft 、米Amazon、米Alphabetといった「AIハイパースケーラー」3社が投じた計3000億ドル(約47兆9000億円)という巨額投資とは、文字通り桁が違う。
また、自社独自のAIモデルを構築する代わりに、仮想アシスタント「Siri」の基盤に米Googleの「Gemini」を採用するなど、他社の技術を柔軟に活用する戦略をとっている。
経営幹部の7割はAIを「ほぼ使っていない」? 調査で判明した意外な実態
AIに対するウォズニアック氏の懐疑的な視点は、他の経営リーダーたちの間でも共有されている。米スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授が主導し、米国、英国、ドイツ、オーストラリアの幹部級6000人以上を対象に実施した調査がある。
同調査によると、最高経営責任者(CEO)や最高財務責任者(CFO)などの経営幹部の約70%が、業務でのAI利用時間は「週1時間未満」であり、28%にいたっては「全く利用していない」ことが判明した。週5時間以上AIを使用していると回答した幹部は、わずか7%にとどまっている。
とはいえ、職場におけるリーダー層のAI利用自体は増加傾向にある。米Gallup社が2025年第4四半期に実施した調査では、リーダーの69%が何らかの形でAIを利用しており、2023年半ばの40%未満という数字から大幅に上昇した。その一方で、AIの社会実装を推進する当の起業家たちが、家庭内ではスクリーンの使用を厳格に制限しているという事実がある。
YouTubeの共同創業者で、2006年のGoogleによる買収以前に最高技術責任者(CTO)を務めたスティーブ・チェン氏は、2025年の講演で、自身の子どもによる短尺動画の視聴を制限していると語った。「TikTokは娯楽だが、純粋にそれだけのものだ。一瞬の快楽のためのものであり、こうした短尺コンテンツは注意力の持続時間(アテンション・スパン)を短くさせる原因になる」とチェン氏は警告する。
ジョブズやゲイツも「わが子には制限」
著名投資家のピーター・ティール氏も2024年、2人の子どものスクリーン利用を「週1時間半」に制限していると明かした。ビル・ゲイツ氏、エバン・スピーゲル氏(Snap)、イーロン・マスク氏らも同様の制限を設けている。こうした懸念を裏付けるように、今週、米国の陪審はYouTubeとメタ(Meta)に対し、「依存性を高める設計によって若年ユーザーに損害を与えた」として責任を認める評決を下した。
これらの懸念は、Appleの現旧経営陣にも共通している。2010年にiPadが発売された際、当時のCEOスティーブ・ジョブズ氏は、自身の子どもたちがそのデバイスを一度も使ったことがないと述べ、世間を驚かせた。「家庭では、子どものテクノロジー利用を制限している」と彼はニューヨーク・タイムズに語っていた。
現CEOのティム・クック氏も3月初め、デジタル依存の現状に懸念を示した。彼は「テクノロジーは本質的に善でも悪でもなく、その価値は発明者と利用者の使い方次第だ」とした上で、こう付け加えた。
「人々にデバイスを使いすぎてほしくない。スマートフォンを見る時間が、人の目を見る時間よりも長くなってほしくない。無限にスクロールし続けることは、望ましい一日の過ごし方ではない。外に出て、自然の中で時間を過ごすべきだ」

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