なぜあなたの部下は問題を「解決」しようとしないのか 過労マネジャーを生む“歪んだ分業”の正体(3/3 ページ)
近年「問題を挙げるだけの部下と、課題解決を部下に任せられない上司」という状況がより深刻化していると感じます。なぜ、こういった事象が起こるのでしょうか。解説します。
引き取るのではなく、引き出す
ここまで見てきた通り、問題の本質は構造にあります。ただし、メンバー側に課題がないわけではありません。
実際の現場では「ここまでが自分の仕事だと思っていた」「課題の解決にまで踏み込む認識がなかった」といった声に加え、「文系出身なので数字は分かりません」といった発言に対して、マネジャーが頭を抱えたというエピソードも耳にします。こうした発言に象徴されるように、業務を完遂に導く力や意識が十分に備わっていないことも、任せられない要因の一つです。
ある企業の営業企画部門では、入社3年目のメンバーが新しい施策の推進を任されていました。本人なりに考えてはいるものの、最終的な判断や推進のプロセス設計はマネジャーに委ねる状態が続いていました。
この状況に対して、マネジャーは1on1での関わり方を見直しました。それまでは相談を受けると、できるだけ早く自分が考える正解の答えを提示し、業務を前に進めることを優先していました。しかし、そこから一歩引き、「思考と判断のプロセスに伴走する」関わり方へと変えていったのです。
具体的には、次の3つのステップで対話を行うようにしました。
- 状況の捉え方を言語化する:まず「いま何が起きているのか」「どう見えているのか」を、メンバー自身の言葉で整理してもらいましょう。例えば、メンバーから「この施策、進め方に迷っていて……」という相談があった際、すぐに答えを提示するのではなく、「この状況をどう捉えている?」と問いかけます。「A案とB案があり、Aはスピードは出るがリスクがあり、Bは安全だが時間がかかります」 といった形で、状況を説明してもらいましょう。
- 選択肢と判断軸を引き出す:次に、解決策として「どんな選択肢があるか」「何を基準に選ぶべきか」を問いながら、思考の幅と深さを広げていきます。「今回の目的に照らすと、どちらがより適している?」「そのリスクはどの程度コントロールできそう?」といった問いを重ねることで、メンバーが考える判断軸を明確にし、齟齬があった場合は調整が図れます。
- 意思決定と打ち手を明確にする:最後に「どの案で進めるか」「具体的にどう動くか」を決めてもらい、行動につなげます。「どういった根拠を持ってどの案で進めるべきだと考える?」と問いかけましょう。「A案で進めます。ただし、このリスクに対しては事前にこの対応を取ります」といった形で、判断と打ち手をセットで説明する訓練を積ませます。
課題解決に向けた全業務を任せたわけではありませんが、時間がかかり、非効率に感じられる場面もあったといいます。しかし、中堅メンバーにサポートに入ってもらいながら、任せる範囲を徐々に拡大させていったところ、これまでマネジャーが引き取っていた問題に対して、メンバーが自分の言葉で状況を捉え、選択し、前に進めるようになっていきました。
「丸投げ」するのではなく、「思考と判断のプロセスを共に設計したうえで伴走する」関わり方を意識しましょう。そうすることで、メンバーの実行力が向上し、中堅メンバーのマネジメント経験にもつながっていきます。
結果として、半年ほどの期間でマネジャーが抱えていた負荷は分散され、意思決定のスピードも上がり、同じような問題に対しても、現場で再現的に対応できるようになっていきました。これまでの負荷構造そのものが解消されたのです。
問題を引き取ることで、プロジェクトを前に進めるのか。それとも、マネジャーがサポート役に徹して部下に任せることで前に進めるのか。その違いが、数年後の組織を変えていくのかもしれません。
著者プロフィール:皆川恵美
東京大学卒業後、2002年株式会社リクルート入社。リクナビ・じゃらんの商品企画を担当。その後、株式会社セルム、PMIコンサルティング株式会社にて管理職育成・組織開発コンサルティングに携わった後、同領域にて独立。2010年から株式会社ミナイー代表取締役として、内閣官房主導での中央官庁の働き方改革プロジェクト、大手企業の人事制度構築や、ミドルマネジメント強化プロジェクトなどに従事。2018年、株式会社KAKEAIを共同創業。
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