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値下げしない、買い替えもさせない 「ARC'TERYX」が選んだ「売り上げの先」にあるもの(2/2 ページ)

値下げをしない。製品を長く使わせる――。売り上げと逆行しかねない施策を打ち出しながら、アウトドアブランド「ARC'TERYX」(アークテリクス)は顧客からの支持を広げている。同ブランドの狙いとCX戦略を読み解く。

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ブランドを守る“価格戦略”

 同社は顧客と長期的に関係を築くこの思想を、価格戦略でも貫いている。同社は直営店において一切の値引きをしない。そこには明確な理由がある。

 2014年、アークテリクスは原宿に国内初のブランドストアを出店した。当時、高木さんも毎日のように店舗に通っていた。12月のある日、店舗に立ち寄るとスタッフから「お客さんがすぐに帰ってしまいます」と言われたことがあるという。

 近隣のスポーツショップなどがセールを実施していたため、店舗を訪れた顧客は価格が安くないと分かるとすぐに帰ってしまう状況だった。

 しかし、高木さんは値引きには対応せず、スタッフには「2年待てば分かる」と伝えた。

 「昨日まで10万円だった商品が翌日には半額になることに違和感を覚えました。それで、お客さまに安心した買い物体験を提供できるのかという疑問があったのです」

 価格の一貫性を保つことが、顧客の信頼を支える基盤になるという考えだ。この価格戦略は、ブランドを毀損(きそん)しないための重要な方針だという。

 また、接客の在り方も進化している。かつては1人の顧客に30分以上をかける丁寧な接客を行っていたが、近年は来店客数の増加を受け、同様の対応が難しくなっている。

 そこで2024年にオープンした新宿店で導入したのが、予約制のコンシェルジュサービスだ。さまざまなアウトドアアクティビティに応じた製品の選び方や使い方を、専門スタッフが個別に対応することで、よりパーソナルな体験を提供する。

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完全予約制のコンシェルジュサービスを展開コミュニティスペース「BETA LOUNGE」のイメージ

 事前予約が必要というハードルはあるものの、サービスを受けた顧客からの反応は良く、購買にもつながっている。

“貯めて買う”から“参加する”へ 会員プログラムの進化

 アークテリクスは世界各地で展開するグローバルブランドだが、本国はコミュニケーションやマーケティングの領域において、ローカライズへの理解も深いという。日本国内においても独自のマーケティング主導権を得て取り組みを進めている。

 その一つが会員プログラム「BIRD CLUB」(バード クラブ)のポイント制度だ。直営店、公式オンラインストア、公式アプリで製品を購入するとポイントが貯まり「1ポイント=1円」として還元される。

 このポイント制度をブランド体験につなげる構想があり、現在はその過渡期だという。2025年7月には「EXPERIENCE POINTS」(エクスペリエンスポイント)プログラムを始動。構想は既に動き始めている。

 エクスペリエンスポイントとは「購入」ではなく「体験価値」に重きを置いたポイントプログラム。店舗への来店、製品レビューの投稿、アークテリクスが開催するイベントへの参加などによりポイントが付与され、貯めたポイントを使って登山やクライミングなどの体験イベントに参加できる。従来の「購買に応じた還元」から「体験を通じた関係構築」へと軸足を移す狙いだ。

 「ポイントを単なる割引券にするのではなく、アウトドアを楽しむための『きっかけ』に変えていきたいです。これは直営店だけでなく、取引先の店舗のお客さまも対象とすることで、より大きなコミュニティにしていきたいと考えています」

 また高木さんは、海外で実施している「アークテリクス・アカデミー」を日本でも展開したいと展望を語る。アークテリクス・アカデミーは、単なるイベントではなく、クライミングやハイキングの技術、安全管理のノウハウを伝え、参加者のスキル向上を目指す「教育」の場だ。

 「私たちは、ただ製品を売るだけではなく、アウトドア文化そのものを広げ、文化を支えるブランドでありたい」と高木さん。

 ECの普及により、商品を購入するだけなら店舗に足を運ぶ必要はなくなった。だからこそ、ブランドと顧客をつなぐ“体験”が一層重要になっている。顧客体験とは、購買の瞬間だけではなく、その前後を含めた長い関係の中で設計されるもの――。同社の実践は、そうした本質を示している。

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