「物探しに2時間」が日常の塗装工場が、なぜDXベンダーに? 元SEの社長が示した中小企業の勝ち筋(2/2 ページ)
工業塗装会社であるヒバラコーポレーションは、現場の課題解決から出発し、自社開発のシステムを外販するDXベンダーへと進化した。同社は、祖業とDXを両立しながら新たな収益源をどのように築いたのか。そのプロセスをひもとく。
半年で廃棄塗料「300万円分」減 熟練の勘を再現するAI
他にも、同社では長年培ってきた塗装のノウハウを活用したシステムを多数開発している。その一つが、塗装に使用する塗料の“適切な配合条件”をアドバイスする「配合条件アドバイザー」だ。塗料の配合は、気温や湿度によって絶妙な調整が必要だ。ベテランの熟練技能者は長年の知見により適切な配合が可能だが、経験の浅い若手では失敗も多く、再塗装や塗料の廃棄が業界の課題となっていた。
そこで、ベテランの暗黙知を重回帰分析とAIでアルゴリズム化し、気温や湿度、使用する溶剤などの条件を入力すれば適切な配合条件が分かるようにした。ヒバラコーポレーションでは、配合条件アドバイザーを用いたことで、半年で約300万円分の廃棄塗料が減ったという。
配合条件アドバイザーは、小田倉社長の「人手不足が進む塗装業界に貢献したい」という思いから、現在Web上で無償提供している。
また、熟練の目でも見逃してしまう可能性のある塗装面の微細なキズやピンホール(穴)を検知する「AI表面検査システム」も開発している。検査員の技能のバラつきを解消し、人がより付加価値の高い業務に集中できる環境を整えた。これらは全て、自社や業界の「省人化」といった課題に向き合ったことで生まれている。
古い設備でも使えるシステムで中小製造業のDXを加速
また、DX事業を始めた理由の一つである「塗装と一緒に製造現場の業務をサポートするソフトウェアサービスを提供し、他社との差別化を図る」という構想も実現している。
同社では、工場で稼働する設備の様子を可視化する「設備監視システム」を開発し、自社での使用に加えて、製造業企業に向けて提供している。
設備監視システムは、カメラやセンサーを用いて設備の稼働データをリアルタイムで収集・可視化するシステムだ。これにより、現場に行かずとも設備の異常を検知したり、稼働率の改善策を検討したりといったことが可能になる。
同社の設備監視システムの特徴は、古い設備をそのまま使用できる後付けのハードウェアと専用ソフトウェアを自社で一貫して開発している点にある。
「一般的に、設備を可視化するには、設備自体にインターネットへデータを送るためのコンピューターが内蔵されていることが前提となります。中小企業の現場では昭和時代の機械を稼働させているところも少なくないため、コンピューターを備えた高額な設備への買い替えが必要になるケースもあり、数千万円の費用が必要な場合もあります。これが、中小企業が設備監視を導入できないハードルになっていました」(小田倉社長)
同社では、データを収集するための後付けハードウェアを開発して、ソフトウェアとセットで提供。既存の設備をそのまま使用できるほか「まずは一つのセンサーからデータを収集してみる」と、導入のハードルを下げている。
こうした仕組みにより、中小企業でも現実的なコストでDXを実現できる環境を整えているという。
海外展開も視野に DXで広がる製造業の可能性
製造業にシステムを提供することは、ヒバラコーポレーションにとって塗装業界以外の知見の蓄積につながっている。ここには、海外展開まで見据えた小田倉社長の構想がある。
「国内だけでなく、東南アジアなどの海外の工場を遠隔で管理・運営できる仕組みの構築を考えています。労働人口が減少している時代だからこそ、場所を問わず、持続的に質の高いものづくりを実現する仕組みが必要なのです。DX事業は、そのためのノウハウ蓄積になっています」
現場の課題を起点にテクノロジーを実装し続ける同社の姿勢は、労働力不足に直面する地方の製造業が持続可能な成長を実現するための、モデルケースの一つになりそうだ。
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