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競合「Uber」「DiDi」と連携 タクシーアプリ「S.RIDE」がインバウンド獲得で選んだ“驚きの一手”

S.RIDEは、海外のタクシーアプリ大手「Uber」や「DiDi」との連携を強化し、日本で新たにアプリをインストールすることなく、自国で使い慣れたアプリを通じて正規のタクシーを呼べる環境を整えている。競合である海外プラットフォームと手を組み、インバウンドの「移動の壁」をどう壊していくのか。S.RIDEの橋本洋平社長にその勝算を聞いた。

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 2025年、訪日外国人客数は4270万人と過去最高を記録した。その裏で、羽田・成田空港のタクシー乗り場は連日長蛇の列ができ、非正規の「白タク」が横行する事態となっている。

 訪日客にとって、決済や言語が異なる日本独自のタクシー配車アプリを使うことは、大きな壁となる。日本では「GO」や「S.RIDE」(エスライド)といった国内向け配車アプリが主流ではあるものの、訪日客にとってはなじみが薄い。「どのアプリを使えばよいのか分からない」「日本語表記で操作が不安」「決済方法が自国と異なる」といった課題がある。

 こうした中、S.RIDEは、海外のタクシーアプリ大手との連携を強化し、日本で新たにアプリをインストールすることなく、自国で使い慣れたアプリを通じて正規のタクシーを呼べる環境を整えている。第1弾の「DiDi」との連携に続き、世界70カ国以上で展開する最大手「Uber」との提携も発表。Uber連携は5月の横浜エリアを皮切りに、東京などS.RIDEのサービス展開地域へ拡大していく。

 競合である海外プラットフォームと手を組み、インバウンドの「移動の壁」をどう壊していくのか。S.RIDEの橋本洋平社長にその勝算を聞いた。

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橋本洋平(はしもと・ようへい) S.RIDE代表取締役社長。2003年、ソニー(現・ソニーグループ)に新卒で入社。R&Dセンターにおいて、DLNAの標準化推進およびソフトウェア開発に携わる。その後、モバイル端末事業の立ち上げメンバーとして事業開発に参画。社内公募制度を通じてマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学し、MBAを取得。帰国後は起業家としてS.RIDEを設立。タクシー配車アプリ「S.RIDE」の企画・開発・運用・マーケティング全般を統括し、事業成長をけん引。現在は同社の代表として経営を担う(アイティメディア撮影)

競合のUber、Didiと連携 「囲い込み」以外の戦い方

 タクシー業界で深刻な課題になっているのが、言語やアプリ操作に不慣れな訪日客を狙った「白タク」の存在だ。

 日本到着後に新たなアプリをダウンロードし、カード情報を登録するプロセスは、短期滞在者には高いハードルとなる。「自国のアプリが使えない」不便さが、結果として非正規サービスの利用を助長しているのだ。

 この課題に対し、S.RIDEは「S.RIDE Global Roaming」構想(グローバルローミング戦略)を掲げた。訪日外国人が自国で利用している配車アプリをそのまま使い、日本国内でタクシーを呼べる仕組みだ。携帯電話の国際ローミングと同様の発想であり、移動サービスの分野で、国境を越えたUXの一貫性を実現する。

 「自国で利用している配車アプリであれば、すでにユーザー登録やクレジットカード登録も完了しています。そのアプリのまま東京でもタクシーを呼べるようにグローバル連携を実現すれば、あらためて別のサービスを探したり、白タクを利用したりする必要はなくなります」と橋本社長は話す。

 連携では、アジア圏に強いDiDiや欧米圏で圧倒的シェアを持つUberの利用者が、日本滞在中もそのままS.RIDE提携タクシーを配車・決済できるようにした。特にUberとの連携については「横浜エリアから開始し、東京などへ拡大する予定です。世界の広範なユーザー基盤をカバーできる体制が整います」(橋本社長)と期待を寄せる。

 一方DiDiは、中国を中心にオーストラリア、南米を含む世界で数億規模のユーザー基盤を持つ配車プラットフォームだ。特に訪日客の大多数がアジア圏からであることを考えると、DiDiの強みが東アジアにあることは大きなアドバンテージとなる

 注目すべきは、国内市場でシェアを争うDiDiやUberをパートナーに選んだ点だ。自社アプリへの囲い込みを優先せず、あえて巨大な海外プラットフォームに車両ネットワークを開放した。一見、カニバリズム(自社シェアの侵食)にも見える。だが、これは「囲い込みによる機会損失」を避け、グローバルな需要を確実に掴み取る合理的な戦略だ。

 橋本社長は「国内タクシー産業と、世界の旅行者をつなぐハブになる」と話し、海外のプラットフォームとの接続は、その第一歩だと強調する。

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海外配車アプリとのシステム連携イメージ(以下S.RIDE提供)

「全国展開」より「供給密度」を優先 全国を追わない“局地戦モデル”

 本連携の強みは、S.RIDEが有する車両ネットワークの「密度」にある。2026年4月時点で、都内約1万2000台、全国で2万台以上のタクシーが参加している。この密度の高い車両網をUberやDiDiアプリへ開放することで、訪日客に「すぐ来る」体験を提供できる。これが都市型モビリティの競争力を左右する。

 こうした海外アプリとの連携において重要なのは、タクシー会社が既存のドライバー端末やシステムをそのまま活用できる点だ。今回の「S.RIDE Global Roaming」は、既存のインフラ上に相乗りさせる仕組みのため、新たな専用機器の導入や大規模改修の必要がない。事業者の負担を最小限に抑えつつ、インバウンド需要の取り込みをスムーズに進められる構造となっている。

 タクシー配車アプリ大手が「全国展開」を掲げて地方へ“面”を広げる中、S.RIDEは一貫して首都圏中心の「狭く深い」投資を続けてきた。「47都道府県で呼べること」よりも「東京を始めとした中核都市で5分以内に来ること」の方が、法人や訪日客にとっては重要だからだ。

 供給密度を極限まで高めて「配車成功率」を最大化させる。この局地戦モデルこそが、同社独自の勝ち筋といえる。

 アプリのUI設計も工夫を重ねてきた。S.RIDEの特徴である「スライド操作」は、誤操作による誤配車を防ぐ安全設計だ。ワンタップで呼べる利便性と、意思確認の確実性を両立させている。

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利用画面イメージ

移動を「体験」へと昇華 ロボットタクシー時代と世界ハブ構想

 S.RIDEは今後、テクノロジーの活用もさらに強化する。AIによる配車最適化に加え、将来のロボットタクシー時代を見据えた車内体験の設計も重要なテーマだ。橋本社長は「車内空間でいかに付加価値を創出できるかが大きな要素になる」と指摘する。

 なぜ、自動運転(ロボットタクシー)の普及が「車内体験」の重要性につながるのか。自動運転が実現すれば、乗客は「運転」というタスクや、進行方向を注視する緊張感から完全に解放されるからだ。車内は単なる「移動手段」から、映画鑑賞や会議、リラクゼーションなどが楽しめる「プライベートなリビング・メディア空間」へと進化する。

 インバウンド需要とテクノロジーの融合は、交通課題の解決にとどまらず、日本のコンテンツ産業や都市体験そのものの高度化へ波及する可能性を秘めているのだ。

 こうした未来を見据え、S.RIDEは4月3日から5日にかけて、横浜市で開催した「CENTRAL MUSIC & ENTERTAINMENT FESTIVAL 2026」で、自動運転技術とイマーシブ(没入型)技術を掛け合わせた車内エンタテインメント体験を提供する車両の運行実証を実施した。ソニーグループ内のシナジーを最大限に活用し、ロボットタクシー時代における新たな移動の在り方を提示した。

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SusHi Tech Tokyo 2026 でも自動運転車両の乗車体験を提供(配車エリアのイメージ)

 橋本社長は「将来的には、世界のどこからでも自国で使っているアプリのまま東京でS.RIDEの車両を呼べるようにしたい」と話す。

 海外旅行中でも、自国のアプリで正規タクシーを呼べる環境は、訪日客にとっての安心材料にもなり、違法サービスの抑制にもつながる。グローバルローミング型配車モデルが日本のモビリティ産業の新たな標準となるのか。

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