退職一時金を「廃止」する会社は増えるのか 優秀人材が逃げる給与シフトの成否(2/4 ページ)
王子ホールディングスは退職一時金を廃止すると発表した。過去3年間で廃止した大企業の事例はないが、今後この動きは加速するのだろうか。
「よく分からないもの」に価値を感じなくなった社員
退職一時金には、もう一つの構造的な問題がある。制度が複雑すぎて、社員自身がいくらもらえるのか正確には把握していないという点だ。
三井住友トラスト・資産のミライ研究所の調査によると、自身の退職金水準を把握していない人は62%に上る。王子HD自身も「制度が複雑で透明性が低く、モチベーションの向上にもつながっていない」と、日本経済新聞の取材に対して回答している。
筆者の実感としても、これは間違いない。大手企業のビジネスパーソンに退職一時金の計算方法を聞いてみてほしい。ほぼ全員が「分かりません」と答えるはずだ。
計算方法には開示義務があるため、確認することは可能だ。しかし、その内容はアクチュアリー(保険数理士)でなければ理解できないほど複雑なことも多い。
にもかかわらず、社員はなんとなく「部長クラスまで勤め上げれば、退職金は3000万〜5000万円になるらしい」という曖昧(あいまい)な期待を持っている。先輩の話やWebの情報から、漠然と大きな金額をイメージしている。
この「曖昧さ」こそが、実は人材定着のカギだった。退職一時金には「掛け目」と呼ばれる仕組みがあり、定年まで勤めれば100%だが、途中で辞めると大幅に減額される。しかも減り方は比例ではなく、早期に退職すると大きく損をする構造になっているケースが多い。
「早く辞めたら損をする。でもいくら損するのかは、正確には分からない」。この不透明さが「なんとなく残った方が得」という判断を生み、結果的に社員をつなぎ止めてきたのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
中小企業は「消去法」で50代を採用する 早期退職の前に知るべき現実
大企業の早期退職募集の波が広がりを見せている。申し込みシニア社員も多いようだが、中小企業への転職は簡単ではない。構造的なギャップを解説する。
なか卯の「床に置かれた食器」問題 企業の沈黙が呼ぶ“将来の波紋”
10月下旬、なか卯での「床に置かれた食器」の写真がSNSで拡散された。その後のなか卯の対応が適切だったようには感じない。では、どのような対応が求められるのか?
東京チカラめしの会社、今は「水産」で稼ぐ 売上の半分を占めるまでに成長、なぜ?
大量出店と大量閉店で有名となった「東京チカラめし」、コロナ禍で水産業に参入し、現在は売り上げの半分を占めるまで規模を拡大させました。どのような変遷があったのでしょうか?
66.6億円の大赤字から4年で最高益へ 「ぴあ」は何を変えたのか?
コロナ禍の2022年度に「66億円」もの赤字を計上した、ぴあだったが、そこから逆転し、4年で最高益を記録する。同社のV字回復の要因を解説する。
倒産寸前なのに年収100万円アップ 売上38億円のV字回復を実現した、山梨のプリント企業の「決断と狙い」
Tシャツなどのオリジナルプリントグッズの製作を展開するフォーカスは2020年のコロナ禍、倒産の危機に陥った。しかし現在はV字回復を果たし、売り上げは約38億円に上る。この5年間、どのような戦いがあったのか?
