退職一時金を「廃止」する会社は増えるのか 優秀人材が逃げる給与シフトの成否(3/4 ページ)
王子ホールディングスは退職一時金を廃止すると発表した。過去3年間で廃止した大企業の事例はないが、今後この動きは加速するのだろうか。
退職一時金の廃止、企業側にはどんなメリット?
社員定着のカギとなる退職一時金をなぜ、廃止するのか。企業側のメリットは、大きく3つある。
1つ目は、採用競争力の強化だ。退職一時金の原資を基本給に回せば、初任給を大幅に引き上げられる。王子HDは初任給を前年比約1割増の27万2000円〜28万円に設定した。マイナビの調査によれば、企業選択で「給料の良い会社」を重視する学生の割合は過去最高を更新しており、将来の退職金より月給を重視する若年層には刺さる戦略だ。
2つ目は、中途採用との整合性だ。王子HDでは中途採用比率が2021年度の約1割から2025年度には約5割にまで急増している(参照:日本経済新聞「王子HDの退職一時金廃止、「終身雇用前提」見直し」)。勤続年数が長いほど得をする退職一時金の制度は、中途人材にとって相対的に不利に働く。制度を廃止してフラットな報酬体系にすることで、採用市場での競争力を高めることができる。
3つ目は、運用リスクの解消だ。退職一時金は企業が内部で積み立て、将来の支払いに備える。しかし超低金利が続いた30年間、積立金の運用では思うように増えず、約束した金額との差額を企業が補填(ほてん)し続けてきた。企業年金も同様の構造で、長寿化によって支払い期間が想定以上に延びるリスクも重なっている。こうした財務リスクから解放されること自体が、経営判断としては合理的だ。
メリットもあるが、リスクも伴う。最大のリスクは、若手の離職加速だ。退職一時金がなくなると、報酬の比較が極めてシンプルになる。月給35万円の今の会社と、月給40万円の転職先。退職金がなければ、5万円の差がそのまま判断基準になる。曖昧さが消えた分、転職のハードルは確実に下がる。特に、優秀な人材ほど転職市場での選択肢が多い。報酬が明確に比較可能になった瞬間、引き留める材料はなくなってしまう。
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