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「なくなったら半導体産業が成立しない」 ソフトバンクGが絶大な信頼を置く企業「Arm」とは何者か

孫正義社長が3.3兆円で買収した、半導体設計企業のArm。AI時代に欠かせない存在となった同社は、一体どのような企業なのか。

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 ソフトバンクグループ(以下、SBG)が2026年3月期決算で、“日本企業として史上最高益”となる純利益5兆22億円以上をたたき出した。米OpenAIへの投資などが実を結び、保有株式の時価純資産(NAV:ネットアセットバリュー)は40兆円を突破。AI時代を象徴する一幕となった。

 実は、OpenAIに並んでSBGの好決算を支えた企業がある。SBG傘下の半導体設計企業・英Arm Holdings(以下、Arm)だ。同社の時価総額は2210億ドル(約34兆7000億円、2026年5月12日時点)に上る。

 「Armは、世界の半導体の商流、大きな川の流れの源泉に当たる企業だ。『Armがなくなったら半導体産業が成り立たない』と言っても過言ではない。世界で最も普及しているコンピューティングプラットフォーム(計算基盤)だ」――SBGの後藤芳光氏(取締役 専務執行役員 CFO兼CISO)は、5月13日の決算説明会でこう表現した。

 AIブームを追い風にして成長するArmとは、一体どのような企業なのか。

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Armの半導体チップを掲げるArmのレネ・ハースCEO(出所:Armの発表イベント「Arm Everywhere」のメディアキット)

「なくなったら半導体産業が成立しない」 Armとは何者か

 Armは、半導体の設計図や技術仕様などのIP(知的財産)を、半導体メーカーに提供する企業だ。IPのライセンス料と、同社技術を用いたチップ1個当たりのロイヤルティーを得るビジネスモデルを展開している。

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Armのビジネスモデル(出所:3月30日のアーム事業説明会説明資料)

 Armは「CPU」(中央処理装置)で高いシェアを誇り、米Appleや韓国のSamsungをはじめ、世界のスマートフォンの99%が「ARMアーキテクチャ」(Armの技術仕様)を採用しているといわれる。任天堂のゲーム機「Nintendo Switch」、米NVIDIAのCPU製品、米Teslaや本田技研工業の車載システムなど、Armの技術を採用している企業・製品を挙げれば切りがない。

 SBGとArmによると、Armの技術を用いた半導体チップの出荷数は累計3500億個を超え、CPU搭載チップの市場シェアは50%以上を占める。Armの技術を基にした商品やサービスを利用する人は、世界人口の約70%に及ぶという。

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半導体産業におけるArmの立ち位置(出所:SBGの2026年3月期決算説明会資料)

七面鳥小屋で生まれたArm 孫正義氏が3.3兆円で買収

 Armは、英Acorn Computersや米Apple Computer(現Apple)などの合弁会社として1990年に誕生した。オフィスが置かれたのは、英国ケンブリッジシャー州郊外の七面鳥小屋だったという(Armの歴史より)。

 その後、半導体IPのライセンスビジネスを伸長させ、モバイルデバイス市場で存在感を放つようになる。そんなArmに目を付けたのが、SBGの孫正義代表取締役社長(当時)だった。2016年、SBGは約3兆3000億円でArmを買収し、完全子会社化した。孫社長は当時、以下のコメントを残した。

 「本件買収は、当社にとってこれまで行ってきた買収案件の中でも最も重要なものの一つであり、今後、ARMが当社の成長戦略の重要な柱となることを期待しています」(SBGのプレスリリースより)

 買収から4年後の2020年9月、SBGは「Armの全株式を、NVIDIAに最大約4.2兆円で売却する」と発表した。投資先の株価下落などを受けて手元資金を確保するとともに、NVIDIAの株式を取得する狙いがあった。しかし、規制当局の許認可が得られずに売却を断念。Armは、SBGの傘下にとどまることになった。

生成AI時代にArmが求められる理由

 Armは今、SBGの成長をけん引する立場になった。AIの普及により、エッジAIやデータセンター向け半導体チップのロイヤルティー収入が増加した。複数のIPをセットにした高単価の「コンピュートサブシステム」の販売も好調だ。

 生成AIの処理というと「GPU」(画像処理半導体)が注目されるが、GPUを制御するためにCPUが必要だ。また、GPUは機械学習などAIモデルを開発する処理に向いているのに対して、AIモデルを実行する際の推論処理はCPUが得意とする。

 生成AIの利用が拡大する中、クラウド大手が独自開発したチップにもArmのIPが採用されている。代表例は「Microsoft Azure Cobalt」「AWS Graviton」「Google Axion」などだ。

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Armの売り上げをけん引する要素(出所:SBGの2026年3月期決算説明会資料)

ついに登場したArmの独自チップ「AGI CPU」

 Armは3月24日(英国時間)、AIデータセンター向けCPU「Arm AGI CPU」を発表した。自社設計チップを提供するのは初であり、IPライセンスビジネスからの転換を示唆する。

 同CPUは、AIエージェントの処理を得意とする。OpenAIや米Meta、独SAPなどがローンチパートナーに名乗りを上げている。2027年には「Arm AGI CPU 2」を発表する予定だ。

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Arm初の自社チップとなったArm AGI CPU(出所:3月30日のアーム事業説明会説明資料)

 Arm AGI CPUの市場投入を踏まえて、Armは2030年の売上高を250億ドル(約3兆9000億円)と見積もっている。

 「チップ事業とIP事業を組み合わせることで、Armは新しい成長ストーリーを描いていく」(後藤CFO)

 AI時代を支える半導体チップに欠かせない存在となったArm。SBGが目指す「ASI(人工超知能)のナンバーワンプラットフォーマー」達成に向けて、どう貢献していくのか。

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Armの売上高予想(出所:SBGの2026年3月期決算説明会資料)

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