「SaaSの死」への反撃シナリオ Anthropicショックを覆すIBMの「4つの武器」(3/3 ページ)
ボストンで開催されたIBMの顧客イベント「Think Boston 2026」。会場の熱気とは裏腹に、同社はかつてない逆風にさらされていた。米Anthropic「Claude Mythos」は、メインフレームの脆弱性を容易に特定し、IBMの牙城を根底から揺るがす。「SaaSの死」という言葉が飛び交い、IBMの株価は30%近く急落した。この「Anthropicショック」に対し、IBMはどう立ち向かうのか。レガシーをAI時代の資産へと変える「4つの武器」と、反撃に向けた逆転のシナリオを現地から詳報する。
次世代半導体工場「Rapidus」と連動 日本を「AI最重要拠点」に据えたワケ
今回のThinkで気付いたのは、IBMのグローバルAI戦略において日本が極めて重要な役割を担っているということだった。クリーブランド・クリニックのタンパク質の3次元シミュレーションはその格好の事例だ。デジタル主権を保証する「IBM Sovereign Core」の実装においても、2025年10月に東京に開設された「IBM AI Lab Japan」がソフトウエアの開発などで重要な役割を担っている。AIラボは量子コンピューターの製造に必要な部材なども開発しているという。
IBMの研究所は世界に13カ所あるが、ボストンに近いケンブリッジのAIラボよりも日本のラボの方が規模が上回っている。
またIBMがニューヨーク州の州都、オルバニーの半導体工場で開発した半導体は、北海道千歳市に建設中の次世代半導体工場「Rapidus」で量産する計画だ。「IBM Sovereign Core」を担うための新たなデータセンターも6月に日本に開設する計画だという。
日本アイ・ビー・エムでCTOを務める森本典繁副社長は「IBMがグローバルに進めているAI、ハイブリッドクラウド、量子コンピューティングの3つの技術について、その全てを支える重要な開発拠点が日本にある」と指摘。IBMのAI戦略における日本の重要性を強調した。
「SaaSの死」を打ち消すIBMのAI戦略
Thinkの期間中もIBMの株価は下がり続けたものの、IBMが「Anthropicショック」に立ち向かうAI戦略をきちんと示したことで、「SaaSの死」の不安要素はだいぶ打ち消されたように思える。
メインフレームが多数存在する日本企業としては、一刻も早く「AIファースト企業」に脱皮しなければ、新たなセキュリティリスクにさらされる可能性が否めない。
Thinkを訪れた多くの日本企業関係者も、AI時代のデジタル変革の重要性を再認識したはずだ。クリシュナCEOによれば「AIによる企業の経営変革は始まったばかりだ」という。重要なことは新しい技術にすぐ飛びつくよりも、自らの経営に必要な技術を見極める目を養うことだ。自らの技術を押し付けるのではなく、最適な技術メニューを提案するIBMの姿勢は、日本企業にとっても力強い味方となりそうだ。
著者情報:関口和一(せきぐち・わいち)
(株)MM総研理事長、国際大学GLOCOM客員教授
1982年一橋大学法学部卒、日本経済新聞社入社。1988年フルブライト研究員としてハーバード大学留学。1989年英文日経キャップ。1990年ワシントン支局特派員。産業部電機担当キャップを経て、1996年より編集委員を24年間務めた。2000年から15年間、論説委員として情報通信分野などの社説を執筆。日経主催の「世界デジタルサミット」「世界経営者会議」のコーディネーターを25年近く務めた。2019年株式会社MM総研の代表取締役所長に就任。2026年3月よりMM総研理事長を務める。2008年より国際大学GLOCOMの客員教授。この間、法政大学ビジネススクールで15年、東京大学大学院で4年、客員教授を務めた。NHK国際放送のコメンテーターやBSテレビ東京の番組のメインキャスターも兼務した。現在は「CEATEC AWARD」の審査委員長や、「技術経営イノベーション大賞」「ジャパン・ツーリズム・アワード」の審査員などを務める。著書に『NTT 2030年世界戦略』『パソコン革命の旗手たち』『情報探索術』(以上日本経済新聞)、共著に『未来を創る情報通信政策』(NTT出版)、『日本の未来について話そう』(小学館)『新 入門・日本経済』(有斐閣)などがある。
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