自社で持つ顧客データが「ゼロ」だった永谷園 公式アプリで仕掛ける“指名買い”を生む戦略(1/2 ページ)
複数のロングセラーブランドを抱える永谷園が、同社初となる公式スマートフォンアプリの提供を開始した。背景にあったのは、「顧客データ保有ゼロ」とも言える状態への危機感だ。アプリ開発に踏み切った、老舗メーカーならではの課題とは。
「お茶づけ」やインスタント味噌汁「あさげ」など、数々の商品で日本の食卓を支え続けてきた老舗食品メーカーの永谷園(東京都港区)は、5月15日に同社初の公式スマートフォンアプリ「永谷園アプリ」を提供開始した。
ロングセラーブランドを多数保有する同社は長い歴史の中で、生活者向けのプレゼントキャンペーンを実施するなど、ファンとの関係を築いてきたが、課題を抱えていた。
「これまで、自社で保有する顧客データはゼロの状態でした」――こう話すのは、コミュニケーションデザイン部 CRM課 課長の小山純平さん。
キャンペーンごとに集まる住所や氏名といった個人情報はそのキャンペーン限りで使用し、終了後には破棄していたため、顧客データとして蓄積していなかった。また、ハガキで応募するキャンペーンも多く、デジタル化も十分にはできていなかった。
今回の公式アプリでは、顧客データ基盤を構築した先で、顧客から「永谷園の商品を買いたい」と“指名買い”されるための仕掛けを施している。
レシート投稿に“ガチャ”も 永谷園アプリの全貌
アプリサービスの柱となるのが、レシート投稿による「ランクプログラム」と「デジタルカードガチャ」だ。
ランクプログラム
永谷園商品を購入した際のレシートを撮影し、アプリに投稿すると「おかげさまポイント」がたまる仕組み。たまったポイントによってユーザーのランク(レギュラーからプラチナまで)が変動し、ランクに応じて異なるプレゼントや体験企画を用意する。
プレゼントでは商品の詰め合わせの他、同社が長く協賛を続けている相撲や歌舞伎のチケットなど、江戸文化を感じられる体験も用意する予定だ。
デジタルカードガチャ
1日1回のアプリログインボーナスもしくは商品購入で、「ガチャ券」を配布。ガチャでは「デジタルカード」をランダムで提供する。デジタルカードは、長年「お茶づけ」に封入し、2025年12月末に商品への封入終了を発表した「東海道五拾三次カード」のほか、期間限定で他社キャラクターIPとのコラボカードなども用意する。
コラボ第1弾として、サンリオのキャラクターとコラボしたオリジナルカードを展開。キャラクターIPとのコラボは、新規顧客獲得のきっかけになるとみている。

サンリオキャラクターズとのコラボカードイメージ。東海道五拾三次の舞台にサンリオのキャラクターが登場するオリジナルデザインは、府中市美術館学芸員 金子信久氏の監修を受けて制作した。カードの裏面には解説文も記されている(出所:プレスリリース)人口減少、高齢化……老舗ブランドが直面する現実
自社アプリの開発に踏み切った背景には、3つの大きな危機感があったと小山さんは明かす。
1つ目は、国内の人口減少と、コアユーザー層の高年齢化だ。同社はロングセラー商品が多く、60代以上のユーザーによる購買に支えられている。中長期的な持続性を考えると、30〜40代を含めた幅広い層との接点づくりが必要になっていた。
2つ目は、マーケティング予算をより効率的に活用する必要性だ。そのためにも「顧客を知る」ことが重要だった。そして3つ目が、顧客との「一時的なつながり」で終わっていた従来のキャンペーンに限界を感じていたことがある。
「継続的なコミュニケーションへと発展させるデジタルツールが、社内にはほとんど存在していませんでした」(小山さん)
これまで永谷園がマーケティングに用いていたのは、小売店などから購入するPOSデータなどだった。しかし、小売店から入手するデータでは、その購入者が同社のファンなのか、それとも他社商品でも構わない層なのかを判別できなかった。また、個々の顧客単位での購買行動、いわゆる「n=1」の動きを追うこともできなかった。
アプリをダウンロードするユーザーは、同社への関心が比較的高いユーザーだと考えられる。属性情報や、併せて購入している商品、リピート頻度といったデータからファン層の解像度を上げる。
取得したデータは、プロモーション施策の精度向上や、新商品の開発などに活用する予定だ。また、アプリを通してファンに直接アンケートを取ることで、顧客の声を商品開発などに生かす構想もある。目指すのは、ファンと一緒に商品を生み出すような、共創型マーケティングだ。
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