「背中を見て覚えろ」はもう限界 「職員激減」に向けて自治体DXに必要な「AIと共有する業務マニュアル」の作り方(2/3 ページ)
自治体DXの推進が叫ばれる中、現場では業務の属人化や知識継承の停滞といった課題が依然として残っている。背景には、「オレの背中を見て覚えろ」に象徴される暗黙知への依存や、再現性を前提とした業務設計の不足があるのではないか。CIO補佐官として全国の自治体を支援する筆者が、人間とAIエージェントの協働を考察する。
人間とAIが「同じ業務マニュアル」で働く時代
担い手を増やす際、再現性の低い活動を任せると組織としての統制が取れません。それ以前に、担い手に業務や知識を伝達することもできません。
そのため、いかに形式知を組み上げて伝達するか、つまり「アート」の余地を狭めつつ「サイエンス」に昇華できるかが求められるのです。
業務における形式知の代表的なものが「業務マニュアル」です。自治体DXにおいても、国が示す手順書という形でマニュアルが提供されていますが、その内容は依然として多くの課題を抱えていると言えるでしょう。
また、自治体の全ての業務においても本来は業務マニュアルを整備するべきですが、現実として十分に整備されている例は多くありません。
先に述べたように、筆者が考える自治体業務の担い手には人間だけでなくAIエージェントも含まれます。しかし、人間向けとAIエージェント向けで個別にマニュアルを用意するのは非効率的です。自治体業務をAIエージェントに任せるためにはクリアすべき課題が多く、その一つが「人間と同じマニュアルをAIエージェントが活用し、業務を高い再現性で遂行する」ことです。
つまり、人間もAIエージェントも同じマニュアルを参照することで、人間の作業をシームレスにAIエージェントに引き継ぐ仕組みが有効なのではないかと考えています。
AIエージェントの場合、このマニュアルに相当する情報を「エージェントスキル」と呼びます。自治体でのエージェントスキル活用については過去の記事で詳しく取り上げています。
業務マニュアルをエージェントスキルの形式で整備し、職員もそのマニュアルを参照しながら業務を進めるのです。マニュアルそのものは自治体内部で継続的にメンテナンスすることで、再現性の高い業務遂行が可能となる未来が見えてきます。
もちろん現時点では、AIエージェントが自治体の中で稼働している場面はまだほとんどないと思います。しかし、人間向けのマニュアルをエージェントスキルとして整備しておけば、AIエージェント導入が現実的になった時点で、段階的にAIエージェントに業務を引き渡せるようになります。
AIエージェントも「万能な担い手」ではない
筆者は現在、AIエージェントの開発・改良に加えて、人間とAIエージェントが協調して業務を進めるためのエージェントスキルの在り方についても模索しています。
試行錯誤の連続ですが、そこで気付いたことがあります。それは「人間にもAIエージェントにも能力差がある」ということです。
人間はそれぞれの適性や経験によって業務遂行能力にバラつきがあります。担い手の対象が未経験者にまで広がると、業務の知識が全くない人にその業務の背景となる知識を伝える必要も出てきます。
習熟度ごとにマニュアルの記述レベルを変える試みを、以前の記事でも紹介していますが、そもそもそのマニュアルを適切に読んでもらえるのかも気になります。
形式知となるマニュアルが整備されても、実際に業務を遂行するのは人間であり、全体として業務をうまくこなす能力は「アート」と言えるのかもしれません。
実はAIエージェントにも同じような課題があります。
生成AIはその性質上、常に同じ結果を返すわけではありません。すなわち「再現性がない」――よりアート寄りの性格を持つツールと言えます。そのため「細かいところはうまくやっておいて」といった曖昧(あいまい)な指示を業務マニュアル(エージェントスキル)内で使えば、結果にバラつきが生じます。
高性能のAIエンジンを用いることで結果のバラつきを抑えたり、バラつきが生じても高いレベルで結果を出したりすることも期待できますが、それらを完全にコントロールするのは難しいのが現状です。
また、AIエージェントを稼働させる環境が常に外部のネットワークにつながっているとは限りません。
住民の情報など機密性の高い情報を扱う場合は、外部ネットワークに接続せず、サーバ単体で稼働するローカルLLMによるAIエージェントを活用する場面も想定できます。ローカルLLMの性能は日々進歩していますが、一部の性能ではクラウド型LLMに及ばない場合もあります。
つまり、単にAIエージェントを活用するだけでは再現性を追求することは難しいのです。そして、再現性の有無は業務のパフォーマンスに直結する可能性があります。
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