「背中を見て覚えろ」はもう限界 「職員激減」に向けて自治体DXに必要な「AIと共有する業務マニュアル」の作り方(1/3 ページ)
自治体DXの推進が叫ばれる中、現場では業務の属人化や知識継承の停滞といった課題が依然として残っている。背景には、「オレの背中を見て覚えろ」に象徴される暗黙知への依存や、再現性を前提とした業務設計の不足があるのではないか。CIO補佐官として全国の自治体を支援する筆者が、人間とAIエージェントの協働を考察する。
こんにちは。「全国の自治体が抱える潜在的な課題を解決すべく、職員が自ら動けるような環境をデジタル技術で整備していく」ことを目指している川口弘行です。
前回は、自治体DXを「サイエンス」と「アート」の両面から考え直すことを試みました。ここでは、サイエンスは一定の法則性に基づく再現性のある取り組みであり、アートは属人的要素を持つ一種の不確実性を伴う取り組みと整理しました。
こうした観点から見ると、自治体DXが迷走する背景には、
- 国から見た自治体の現状や想定している未来像が個々の自治体と乖離(かいり)しており、自治体側の共感を得られない(アートの面で力不足)
- 国から示された手順書はまだまだ再現性に乏しい(サイエンスの面で力不足)
- 自治体側が感じる「見えない制約」や過去の成功体験が自らの行動を束縛している(アート的な発想を阻害する組織文化)
――という複合的な要因があるのではないかと筆者は考えます。
自治体DXを前に進める鍵はどこにあるのか――本稿では、自治体DXが「掛け声倒れ」に終わる背景をひもときながら、人間とAIエージェントが協働する時代に必要となる“新しい業務マニュアル”の在り方を考えていきます。
2040年問題で崩れる“属人的な仕事”
サイエンスとアート、つまり再現性の有無という視点は、組織における知識伝達にも当てはまります。
以前書いた記事「異動は『異業種への転職レベル』、現場は疲弊 自治体職員の働き方はどこへ向かう?」でも、暗黙知、形式知という考え方について紹介しましたが、再現性という観点で見ると、サイエンスで用いられるのは形式知であり、アートで求められるのは暗黙知ということになります。
つまりアートの背景にある暗黙知が伝達されにくいからこそ、他の部署、他の自治体への横展開が難しい(伝達コストがかかる)ということになるわけです。
仮に知識共有に時間や労力がかかったとしても、組織や業界全体に余裕があるなら「オレの背中を見て覚えろ」という方法も成り立つかもしれません。しかし、2040年問題に代表されるように、人も予算も時間も不足していく中では、この方法は現実的ではありません。
そもそも「自治体がなぜデジタル変革(DX)を目指すのか」に対する筆者の答えは、2040年問題にあります。これまでの政府の意思決定能力では、自治体を取り巻くさまざまな業務を減らすような判断はできないでしょう。
そのため、次なる策として「自治体業務の担い手を増やす」という方向に議論は向かいます。しかし、職員数を増員することは難しいですし、会計年度任用職員を頼りにしつつも、過度に依存する状態が良いとも思っていません。
こうした状況を踏まえ、現段階での筆者のアイデアは次の3つです。
1.組織内でそれぞれの職員の繁忙期・閑散期の差異を埋めつつ(つまりお互い協力し合って)、
2.一部の作業を市民や受益者に移行し、
3.AIエージェントなどの新しい技術も新たな担い手として考える
1の代表例が「庁内ワークシェアリング」です。これも以前の記事で提案しましたが、困ったときに職員間で助け合える体制を構築していくことは大切です。
2は「オンライン申請」や「証明書のコンビニ交付」など、これまで職員がやっていた作業プロセスの一部を市民側に切り出すことで、職員負担を減らすアプローチです。
そして、3は少し未来の話に思えるかもしれませんが「庁内業務そのものをAIエージェントに任せてしまう」というものです。筆者は仕事を任せた時点でAIエージェントを“業務上の主体”として扱い、人間と同列の位置付けとして考える時代が来ると考えています。
AIエージェントというと、米OpenAIの「Codex」、米Anthropicの「Claude Code」「Claude Cowork」、さらに一時期話題となった「OpenClaw」などがあります。現段階では、プログラムのコード生成やファイルの読み書き、Webブラウザの操作などができる汎用エージェントですが、将来的には業界特化型のAIエージェントが増えてくると思われます。
実際、筆者は自治体向けAIエージェント製品「Storage Manager」を開発・提供しており、すでにいくつかの自治体で導入され、運用も始まっています。まだまだ発展途上の部分もありますが、筆者自身はこの未来像に手応えを感じています。
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