意思決定プロセスを資産化 Salesforceを超えるAI基盤「コンテキストグラフ」の正体(2/3 ページ)
米ベンチャーキャピタルのFoundation Capitalは、AIエージェント時代のエンタープライズソフトウェアにおける新たな競争軸として「コンテキストグラフ」(Context Graph)を提唱する論考を相次いで発表した。
「過去の検索」から「未来の予測」へ
こうした意思決定の記録が蓄積・構造化され、複数のシステム・関係者・時系列を横断して接続されたものを、ガーグ氏らは「コンテキストグラフ」と呼ぶ。モデルの思考過程とは異なり、過去の判断を検索・参照できる「生きた意思決定の記録」だ。
この論考が示す具体例は、分かりやすい。更新契約を処理するエージェントが20%割引を提案する。社内ポリシーは10%が上限ではあるものの、エージェントは過去にあった重大障害の記録、顧客からの「改善されなければ解約する」という申し出、前四半期にVPが同様の例外を認めた事例を参照し、財務部門に承認申請をルーティングする。
承認後、CRM(顧客関係管理)には「20%割引」という事実しか残らないが、コンテキストグラフには「なぜそれが認められたか」が丸ごと記録される。この好循環が積み重なることで、グラフが十分な厚みを持ったとき、システムの能力は「以前どう対処したか」という検索から「このように構造化した場合、何が起きそうか」という予測へと質的に変化する。
既存の巨人たちの構造的弱点 「現場」の不在
意思決定の記録を残すには、判断がなされるその瞬間に、その場にいなければならない。これがこの論考の問いの核心だ。データが書き込まれる現場にいるか、書き込まれた後のデータを読むだけの立場にいるか、という違いである。
Salesforceや米ServiceNow、Workdayは現在の状態を保存するよう設計されており、意思決定が下された時点の状況を再現できない。割引が承認されても、その判断を正当化した経緯は保存されない。また、複数システムにまたがる判断を統合する位置にも存在しない。
あるサポート対応の判断は、顧客の契約ランク、サービス水準の取り決め、過去の障害実績、解約リスクの兆候といった情報を横断して初めて成立するが、既存プレイヤーはその全てを見渡せる位置にいない。
米Snowflakeや米Databricksは、データ転送を経由してデータを受け取るため、意思決定の結果は得られるものの、その判断に至る過程は得られない。意思決定が実行される現場にいることと、エージェントが構築される環境の近くにいることは、全く別の話だ。
これに対しエージェントシステムのスタートアップは、データが書き込まれる現場に最初から座るという強みを持つ。ワークフローを実行しているため、後処理ではなくリアルタイムで、意思決定が確定する瞬間に判断の文脈を記録できる。
エンタープライズの意思決定記録は、機密性が極めて高いものだ。法律事務所では、あるクライアントの過去の対応履歴が別のクライアント、特に競合他社への対応に影響を与えることは許容されない。
医療機関では、運用履歴が間接的に外部に漏れることも許されない。ガーグ氏らは、アクセス権限の管理にとどまらず、どの情報をどの判断に使わせるかまで細かく制御できる仕組みを持つプレーヤーが、データそのものと同様に長期的な信頼を積み上げると論じる。
© エクサウィザーズ AI新聞
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