2年間で「1万時間」削減 「1円の誤りも許されない」ソニー経理が“まず試してみる”DX集団に化けたワケ(2/3 ページ)
「経理DXを進めたいが、現場の抵抗が強い」「ツールを導入しても活用が広がらない」――こうした悩みを抱える企業は少なくない。経理部門は正確性や継続性が求められるため、変革が難しい領域とされてきた。ソニーグループの経理部門は、約2年間で150件を超えるDXプロジェクトを推進し、累積1万時間以上の業務時間を創出した。会計・税務の専門家集団は、どのようにして変革を実現したのか。
「ペーパーレス化」で終わらせない DXの目的を再定義
人と組織を整えた次に取り組んだのは、経理DXの目的を再定義することだった。
当時はコロナ禍でテレワーク中心の働き方が広がる中「ペーパーレス化による決算の維持」がDXのゴールとして捉えられがちだった。しかし、彼らが目指したのはその先にある「競争優位の確立」と「企業価値向上への貢献」だった。
従来の経理組織では、請求書をはじめとする紙の書類の処理といったトランザクション業務の負担が非常に重くなっていた。こうした負担を軽減しなければ、付加価値業務やビジネス・経営に貢献できる組織にシフトすることは難しい。
単にツールを導入するだけでは目的を達成できないと考え、林さんたちは「手段の目的化」の排除を徹底した。この姿勢は現在も継続しており、現場から「この業務をデジタル化したい」という相談が寄せられても、トランスフォーメーションデザイン部のメンバーは、すぐにツール導入を提案することはしない。現場に伴走する“社内コンサルタント”として入り込み、既存業務そのものを見直すところから始めている。
また、従来のRPAには、画面のUIが変わるたびにプログラムが止まる保守運用の大変さや、処理スピードの遅さといった課題があった。
これらを解消するために打ち出したのが「次世代ファイナンスオートメーション構想」だ。
構想のコンセプトは「データのインプットからアウトプットまでの一貫自動化」。RPAだけに頼るのをやめ、データの抽出・加工にはETLツールを、分析や可視化にはダッシュボードを使うといった具合に、最適なDXツールを適材適所で組み合わせる戦略へ転換した。
1万時間削減 150件の改革を生んだ「市民開発」の仕組み
始動以来、トランスフォーメーションデザイン部が重視してきたのが、専門知識を持たない現場の社員が業務アプリやシステムを開発・運用する「市民開発」の推進だ。
経理や財務の領域は、継続性や正確性が絶対であり、前例踏襲の意識が根付きやすい。一方で、DXには「まずは小さく試して、違ったら変える」というアジャイルのマインドセットが必要となる。このギャップを、どのように乗り越え、市民開発者を増やしているのだろうか。
経理DXの本格始動後、約8カ月間という長い時間をかけてグローバル経理センターの社員に向けて説明会を開催した。また、DXに抵抗の少ないメンバーを集めた「施策検討分科会」を立ち上げ、現場が抱える課題をボトムアップで徹底的に吸い上げた。
また、施策を実行する中で生まれた事例を共有する「グッドプラクティス事例共有会」を定期的に開催。市民開発者となった現場の経理メンバーが、自らの成果をプレゼンする。
その場にはグローバル経理センターのトップをはじめとするマネジメント層も参加し、直接コメントや質問を投げかける。「組織として、この活動を本気で評価している」という姿勢を見せ続けることで、現場のモチベーションを高めていった。
「間違えられない」という現場の不安に対しては、手作業と同じ結果が出るかを徹底的に検証するテストフェーズを用意することで、安心して活用できる環境を整えているという。
取り組みにより、過去2年で150件以上のプロジェクトが実行され、累積で1万時間以上の削減効果を生み出した。
活用事例は、決算時の仮勘定残高チェックや売上損益分析、資金繰り関連の自動化、さらに直近ではESG開示に向けた非財務データの集計・編集など多岐にわたる。
さらに重要な変化は、現場の「自走」が始まったことだ。市民開発者は30人弱まで増加し、グローバル経理センター全体に改善活動が広がりつつある。
運用ルールの管理はトランスフォーメーションデザイン部が担うなどガバナンスは維持しつつ、現場が日々の非効率なプロセスを自身の力で改善していく仕組みが定着している。
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