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「何でもIT化」が組織を壊す 「GIGAスクール名付け親」に聞くAI時代のリーダー論

業務を劇的に効率化させる一方で、扱い方を間違えれば組織のエンゲージメントを破壊する生成AI。テスト採点時間を最大80%削減するDXを実現しながらも「記述式の自動採点は絶対に導入しない」と言い切るEdLog社長の中川哲氏(元日本マイクロソフト業務執行役員)。同氏が形だけのDXで組織を停滞させないためのマネジメント論を展開。「AIのスコアだけで判断された部下の心は離れる」と語る組織論に迫る。

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 「自分が一生懸命に書き上げた事業レポートを、上司が1秒も読みもせず、AIだけに良し悪しを判断されたらどう思うか。メンバーの心は一瞬で離れていきます」――。

 ビジネスにおける生成AIの活用は、業務を劇的に効率化させる一方で、扱い方を間違えれば組織のエンゲージメントを根底から壊してしまう。

 東京青年会議所が2月に主催したセミナー「AIと創る未来の教育」には、AI時代を生き抜くヒントを求め、教育業界の管理職層が張り詰めた面持ちで詰めかけていた。

 効率化の動きに対して冷静な組織論を展開し、異彩を放ったのが、日本マイクロソフトの業務執行役員を歴任し、文部科学省の「GIGAスクール構想」の名付け親でもあるEdLog(東京都港区)社長の中川哲氏だ。同氏は社会構想大学院教授も務めている。EdLogはAI採点支援システム「EdLogクリップ採点支援システム」(以下、EdLog)の開発・販売を手掛ける教育ベンチャーだ。

 テストの採点時間を最大80%削減するという驚異的なDXを実現しながらも、中川氏は「現時点で記述式の自動採点は絶対に導入しない」と言い切る。効率化の波に飲まれず、リーダーが磨くべき「相手の内面を見取る力」とは何か。形だけのDXで組織を停滞させないための、AI時代におけるマネジメント論を聞いた。

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中川哲(なかがわ・さとし) 社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科長 教授。関西大学大学院経済学研究科 修士課程を修了、修士 (経済学)。東北大学大学院 情報科学研究科 博士課程後期修了、博士(情報科学)。日本のソフトウェア開発会社を経て、1997年にマイクロソフト(現 日本マイクロソフト)に入社し、チャネルマーケティング、プロダクトマーケティングを担当。その後、Windows製品担当の業務執行役員を経て、文教本部、エンタープライズ事業の業務執行役員に。同社退職後の2017年に文部科学省に入省し、2020年まで日本の初等中等教育におけるプログラミング教育を推進。現在はEdLog社長。企業経営とともに文部科学省 初等中等教育局 視学委員(GIGAスクール戦略担当)、東京都港区教育委員会教育情報参事官としてGIGAスクール構想の推進支援に関わる(以下、東京青年会議所提供写真)

現場の作業時間を最大80%削減 それでも「評価の場」にこだわった理由

 小・中学校や高校のテスト採点を支援するEdLogは、AIによる文字認識などを駆使し、現場の作業時間を平均で40%、最大で約80%削減した実績を持つ。解答用紙をスキャンして読み込み、AIの文字認識によって記号式の問題を自動採点するほか、解説コメントを入力することで詳細に指導できる。現在は国立大学の付属学校などをはじめ、小・中学校あわせて約2000校に導入されているという。

 リリースした2017年当時には「テストの採点は手でするもの」との反応も少なくなかった。その後、教育現場でも「働き方改革が必要」との考え方が広がり、導入校が増えていったという。

 「当時も採点システムはありましたが、入試か模試に対応したものだけでした。大量に採点するので、ビジネスとして成立していたからでしょう。しかし、入試や模試での採点は、教師自身が教えた子どもを評価するものではありません」

 開発者である中川氏がEdLogを立ち上げた根底には「多忙な現場をITの力で救いたい」という考えがあった。しかし、中川氏が狙ったのは「一律の効率化ツール」ではない。入試や模試の採点ではなく、日頃から相手に向き合っている「身近なリーダー」(教員)が、自ら評価を下す日常の業務をラクにすることに照準を合わせたのだ。

 「現場の教員に話を聞くと、小学校は1人で全教科を教える上に、単元ごとにテストを実施するので、とにかく量が多いことが分かりました。業者が作成したテストを利用するものの、1年間に80回くらいテストをするので採点する量も膨大です。また、中学校と高校の場合は、教員が自分でテストを作って自分で採点しています。記述式はしっかり採点する一方、選択式だけでも採点が楽になればと考えて、現場の教員のために開発しました」

 中川氏は日本マイクロソフトでマーケティングの業務執行役員を歴任し、文科省がプログラミング教育を立ち上げる際に戦略マネージャーとして参画した。文科省が児童生徒1人に1台タブレットやPCの端末を持たせて、同時に高速大容量の通信ネットワークなどのICT環境を整備する「GIGAスクール構想」の立ち上げを、国の中枢で推進した経験がある。同構想を立ち上げた際、構想の名付け親も中川氏だった。その後、社会構想大学院で教授も務めている。

 そんな中川氏だからこそ、テクノロジーを現場に適用する際の「一線」を冷静に見極めている。

 EdLogを開発した当初のバージョンは、現在も無償で提供していて、オプションの機能を搭載したバージョンを有償にしている。基本的に無償で提供している理由については「開発に協力していただいた方や、社会に還元しようと考えたから」だと明かす。

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東京青年会議所が2月に主催したセミナー「AIと創る未来の教育」

IT化の目的を見失った「形だけのDX」が組織を壊す

 研究者でもある中川氏は、効率化と同時に「何でもIT化・自動化すること」への強いリスクを企業や組織のリーダーに向けて発信している。特に教育にITを活用することにはリスクも感じているという。単純にビジネス面だけを考えてITが利用されると、教育の意味が失われる危険性があるからだ。

 「『ア』や『イ』といった選択肢を記入するテストであれば、AIによって自動採点ができます。そこで教員が『じゃあ、AIが採点しやすいテストを作ろう』となってしまったら本末転倒ですよね。全部AIが採点するようなテストなら、しない方がいい。採点という行動にどのような意味があるのか、何でもIT化することによって本当に社会や組織が良くなるのかを考える必要があります」

 これは会社組織にも当てはまる考え方だ。AIが自動処理しやすいからといって、アウトプットの形式を全てAI向けに変えてしまっては意味がない。何のためにIT化するのかという本質が抜け落ちると、ただデータを吸い上げるだけの無駄なシステムが乱立し、組織は形骸化する。

 「教育のDXでは、あらゆるデータを吸い上げることがよく語られますが、本当にそんな必要があるのでしょうか。その場合に、誰がデータサイエンティストをするのかといった問題もあります。本当に必要な部分を冷静に見極めて、さなぎが蝶に変わるような取り組みを考えていかないと、無駄なシステムを作ってしまう状況になりかねません。この視点が、教育分野に入ってくるIT業界の方には抜け落ちがちだと感じています」

 だからこそEdLogでは単なる自動採点にとどまらず、学習指導につながる機能も搭載した。解答用紙には、デジタルペンやキーボードなどでコメントを書き込めるようにしている。キーボード入力によって解説コメントをつけることで、詳細な指導も可能だ。

 解説をデータベースにストックして模範解答にレイアウトする機能や、以前のテストと比較して成績の推移が分かるシートを生成する機能など、特許を取得した技術もある。コメントで解説する機能について、中川氏は「教育を前進させるための機能として必要だ」と指摘する。

 「間違った回答にコメントを入れることは、児童生徒と教員の双方にとって意味があります。児童生徒は、何で間違ってしまったのだろうと考えます。教員にとっては、もしかしたら自分の教え方が悪かったので、間違ったのではないかと考える機会になります。間違いをそのままにしておくのではなく、コメントを入れて解説することが重要です。次の指導に展開することによって、学びのトランスフォーメーションが実現します」

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東京青年会議所が2月に主催したセミナー「AIと創る未来の教育

効率化の先にある、リーダーの「人を見取る力」

 GIGAスクールの環境を生かして、クラウドを介して採点した解答用紙を返却することで、次のようなやりとりも可能になる。

 まず、最初に採点をしていない解答用紙と、模範解答を先に児童生徒に渡す。そこで児童生徒が自己採点した上で、教員が採点したものを返却する。すると、自己採点よりも教員の採点の方が低い点数だった場合、なぜそうなったのかを児童生徒が積極的に考えるようになるという。このようなやりとりによって、IT化した環境でも教員が児童生徒の内面や成長を見取ることができるのだ。

 もちろん、AIが今後も進化することで、記述式も自動採点が可能になるだろう。しかし、中川氏は「記述式の評価」をAIに丸投げすることは現時点では考えていない。そこに、組織のエンゲージメントを揺るがす「わな」があるからだ。

 「技術的に不可能ではないですが、教員が子どもを見取る力が落ちるリスクがある、と慎重に考えています。会社でも、自分が必死に書いたレポートを、上司が読みもせずAIのスコアだけで判断したら、メンバーはそのリーダーを不審に思い、心は離れていくでしょう。それは子どもでも同じです。回答を見て次はこうしたほうがいいと伝えることや、落ち込んでいるようだったら大丈夫かと声をかけるのは人間の仕事です。この部分が失われないように、リーダーはAIと上手に付き合っていく必要があると思っています」

 アウトプットの行間を読み、次はどうすべきかを言葉で伝え、時に相手のモチベーションを察して声をかける。これこそが、AIには代替できない「人間(リーダー)の仕事」に他ならない。

 業務を効率化するのは、楽をするためだけではない。効率化によって浮いた時間を、いかに「人(部下や顧客)に向き合うための時間」に振り向けられるか。それこそが、これからのAI時代に考えるべきマネジメントの軸だろう。

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著者プロフィール

田中圭太郎(たなか けいたろう)

1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで大学問題、教育、環境、労働、経済、メディア、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)、『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・筑摩書房)。HPはhttp://tanakakeitaro.link/


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