300億円は「ROI不問」 Olive、Trunkを仕掛けるSMBC、新規事業の神髄は「撤退」にアリ(2/3 ページ)
「Olive」や「Trunk」を相次いで成長軌道に乗せ、生成AI活用に向けて500億円の投資計画も打ち出した三井住友フィナンシャルグループ。そんな同社だが、約10年前はモバイルアプリで競合他行に大きく後れを取るなど、変革が進んでいなかった。堅実なメガバンクは、いかに挑戦を次々と形にできる組織へと変貌したのか。
若手でもトップに直接提案 挑戦を後押しする「CDIOミーティング」
風土に大きな影響を及ぼしたのが、2017年に始動した「CDIOミーティング」という仕組みだ。
当時は、米国で「Bank is not necessary」(銀行機能は必要だが、銀行という存在は不要になる)と言われ始め、国内でもEC大手が銀行業に参入する中「自分たちはこのままでいいのか」という危機感が生まれていた。
そのような状態で追い風となったのが、銀行法改正による規制緩和だった。「銀行業高度化等会社」の制度が創設され、銀行業に関連する事業会社を子会社化しやすくなった。
法改正を受けて、SMBCグループは2017年4月に「CDIO」という役職を新設し、初代に前社長の太田純氏(当時専務)が着任。そして同年8月に、新たな挑戦に注力するため、CDIOミーティングを発足した。
CDIOミーティングは、社員が新規事業や業務改善案を経営トップに直接提案できる場だ。CDIOはもちろん、社長、頭取なども出席し、その場で皆で議論して方針を決める。
特徴は、承認された取り組みは、各事業部の予算ではなく、CDIOの別枠予算を使って進行できる点にある。通常の部門予算は、短期的なROI(投資利益率)が厳しく問われるため、いつ利益が出るか分からないデジタル投資などは後回しにされがちだ。
しかし、CDIO予算は「短期的なROIをあえて問わない」。面白い案件であれば、部門の壁を飛び越えてCDIOが予算を付けることができる。発足当初は100億円規模だったこの予算は、現在、磯和氏の下で年間300億円以上にまで拡大している。
「CDIOミーティングでは、年次を問わず、誰でも提案できます。例えば、入行2年目の若手行員が『アバター操作技術やAI技術を強みとする大学発スタートアップが面白いから、銀行で売りましょう』と提案したこともありました」
この提案は承認され、その後、SMBCのグループ会社と当該スタートアップとの協業がスタート。2月にはアントニオ猪木さんのヒューマノイドを開発する「アンドロイド猪木」プロジェクトを共同で発表している。
フラットな提案の場と枠外予算を組み合わせたことで「短期的な利益が見えなくても、まずは新しいものに飛びついてみる」というカルチャーがグループ全体に根付いていった。
新規事業の神髄は撤退にあり 「失敗を認める風土」の作り方
一方で、新規事業を生み出す風土は「失敗の許容」とセットでなければ機能しない。磯和氏は「新規事業の神髄は、失敗した時にちゃんと撤退すること」と断言する。
「新規事業は一定確率で――いや、多くが失敗するとも言えます。銀行のようなレガシーな企業で一番難しいのは、失敗を失敗だと認めること。『誰の責任だ』と追及されるのを恐れ『一部の人にはとても受けているんです』などと言い訳をしてズルズルと続けてしまう。これを断ち切るジャッジが何よりも重要です」
そのために同社では、撤退をシステマティックに判断する仕組みを導入している。スタートアップ育成に精通した外部の識者4人をアドバイザーとして招聘(しょうへい)し、定期的に客観的な評価を受けるのだ。
自分たちで作ったサービスへの“情”を排除し「これはもうやめた方がいい」と外部の視点から引導を渡してもらう。さらに、年に2回以上は社外取締役に進捗と撤退を含めた状況を説明する。こうした透明性の高いプロセスによって、素早い新陳代謝を実現している。
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