「月980円だと思ったのに」 DAZNサッカー専用プラン炎上から見る、「誤解するデザイン」の可否 弁護士に聞く
サッカーW杯開幕を前に、スポーツ配信サービス「DAZN」がSNS上で炎上した。消費者が「誤解するデザイン」の問題点について、佐藤みのり弁護士に聞いた。
佐藤みのり 弁護士
慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。
サッカーW杯開幕を前に、スポーツ配信サービス「DAZN」(ダゾーン)がSNS上で炎上した。きっかけはサッカー専用プラン「DAZN Soccer」のキャンペーン表示だ。
プランを選択する画面では、最初の3カ月間は「月額980円」であることが強調されていた。しかし、実際は途中解約ができない「年間プラン」のみでの提供である上、4カ月目からは通常料金の月額2600円に戻るため、年間で総額2万6340円の支払いが発生する仕組みだった。
加えて、隣にはいつでも解約できるプラン「DAZN Standard」(最初の3カ月間は月額1980円)が表示されており、サッカーW杯の期間中だけ見たい消費者が「DAZN Soccerの方が安い」と勘違いして、年間契約を結んでしまう構造になっていた。
SNS上での批判を受け、DAZNは「DAZN Soccerの一部期間でのご契約についてのお詫びと今後の対応について」において、ユーザーへの謝罪と希望者に対する解約・返金などの救済措置を発表した。なお、DAZN Soccerの新規受付は6月18日をもって停止した。
今回の炎上を基に、サイトやアプリの操作画面で、ユーザーをだましたり勘違いさせたりするデザインである「ダークパターン」の問題点について、佐藤みのり弁護士に聞いた。
「DAZN Soccer」の炎上 違法の可能性は?
──今回の「DAZN Soccer」では「月額980円」が強調され、実際には途中解約不可の年間プラン(総額2万6340円)であることが目立たない設計になっていました。この表示に関して、法律の観点から、問題点はどこにあるのでしょうか?
DAZN側が「DAZN Soccer」の契約画面に、一部月額プランと受け取れる記載がなされていたことを認め、謝罪している「2026年5月30日から6月11日午後8時まで」の期間と、それ以外の期間とを区別して考える必要があるでしょう。
景品表示法では、商品やサービスの価格について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を禁じています(有利誤認表示の禁止、法5条2号)。
DAZN側が表示の不備を認め、謝罪した期間については、契約画面に「月額プラン」などの表示がなされていたケースもあるようです。実際には、途中解約不可の年間契約を締結させるものであった以上、有利誤認表示にあたり、景品表示法違反になる可能性があります。
また、特定商取引法は、顧客が行う特定申込み手続きが表示される映像面に、サービスの価格を表示しなければならず、価格につき人を誤認させるような表示をすることを禁じています(法12条の6)。DAZN側が表示の不備を認めた期間については、サービス価格につき誤認させるような表示がなされていたとして、特定商取引法違反にもなる可能性があります。
一方、DAZN側が表示の不備を認めていない期間については、前述の景品表示法違反や特定商取引法違反に該当しない可能性が高いでしょう。「月額980円」が強調され、途中解約不可の年間プランであることが、視覚的に目立たない表示になっていたものの、表示自体はなされていたためです。
──DAZN側は公式謝罪において「一部の期間における表記ミス」と説明しています。意図的ではなく「単なるミス」であった場合、法的な責任や行政処分の対象となるかどうかに違いは生じるのでしょうか。
前述のように、DAZN側が表示の不備を認めている期間については、有利誤認表示がなされていたとして、景品表示法違反になる可能性があります。景品表示法違反は、わざと偽って表示する場合だけでなく、誤って表示してしまった場合であっても成立し、規制対象になります。
単なるミスであったとしても、景品表示法に違反して不当な表示がなされていた場合、消費者庁は調査を実施します。調査の結果、違反行為が認められれば、誤認表示を排除したり、再発防止策を実施したりするよう「措置命令」を行います。また、違反の事実が認められない場合であっても、違反のおそれのある行為がみられた場合は「指導」がなされます。
──「月額プランだと思ってボタンを押したら年間契約だった」というケースにおいて、消費者側は「勘違い」を理由に、契約そのものを無効(取り消し)にすることは法的に可能でしょうか。
前述のように、特定商取引法は、顧客が行う特定申込み手続きが表示される映像面に、サービスの価格を表示しなければならず、価格につき人を誤認させるような表示をすることを禁じています(法12条の6)。
そして、業者が、サービスの価格について不実の表示をしたことにより、その表示が事実であると誤認し、利用者が申し込みの意思表示をした場合、取り消すことができるとされています(法15条の4)。
今回、DAZN側が表示の不備を認めている期間になされた契約については、DAZN側が謝罪し、任意で解約や返金に応じているようですが、法的にも、特定商取引法に基づき、契約を取り消せる可能性があるといえるでしょう。
一方、DAZN側が表示の不備を認めていない期間については「月額980円」が強調され、途中解約不可の年間プランであることが、視覚的に目立たない表示になっていたものの「不実の表示」があったとは評価できません。そのため「勘違い」を理由に特定商取引法に基づいて取消しをすることは困難と考えられます。
「勘違い」を理由に契約を取り消す方法としては、他にも、民法の錯誤に基づく取消しがあります。しかし、事業者からすれば、利用者が「月額プランだと思って」契約したのか、年間契約と理解した上で契約したのか分からない本件では、錯誤に基づく取り消しも困難と思われます。
──今回の「DAZN Soccer」のような、消費者にとって分かりにくい設計や価格の誤認を招く表示、「×」が押しづらいなど閉じづらい設計で表示することは、法的に見てどのように判断されるのでしょうか。
アプリやサイトの操作画面で、ユーザーをだましたり勘違いさせたりするデザインは「ダークパターン」と呼ばれています。
ダークパターンにはさまざまな種類があります。例えば、消費者にとって重要な情報を視覚的に分かりにくく表示したり、解約などをしにくくするため、しつこくポップアップを表示して拒否しにくくしたりする形態が挙げられます。また、カウントダウンタイマーなどを表示して、商品の購入を急かしたりするパターンもあります。
日本ではまだ、ダークパターンそのものを直接規制する法律がありません。前述の景品表示法や特定商取引法、消費者契約法、消費者安全法、個人情報保護法など、関連する法律によって、個別に規制されています。
一方、世界では、ダークパターンへの法規制が進められています。例えば、韓国では2025年、6つのダークパターンの禁止行為を示し、法規制を始めています。EUでは、デジタルサービス法により、消費者を欺いたり、操作したりするような操作画面を設計・運用することを包括的に禁止しています。
日本も現在、消費者庁のデジタル取引・特定商取引法等検討会にて、ダークパターンに関する規制の具体化について議論がなされているところです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「残業」「パワハラ地獄」 元社員がSNSに虚偽の投稿 やめさせるには?
先日退職した元社員が「残業」「パワハラ地獄」など、SNSに当社の悪いところをかなりオーバー気味に投稿しています。当社の社名こそ出ていませんが、元社員を知る人ならば分かってしまうはずです。投稿をやめさせたいのですが、当社側がアクションを起こした場合、その際のやり取りをさらされるリスクもあり、躊躇(ちゅうちょ)しています。どうすればいいでしょうか?
止まらない深夜の愚痴チャット 「業務時間外は連絡禁止」以外にできることは?
中堅企業の人事労務部で働いています。当社はチャットツールを導入しています。最近、複数の社員から「チームメンバーが、深夜に愚痴を送ってきて精神的な負担になっている」といった相談を受けました。会社全体として、このような行為を取り締まるにはどうしたらいいでしょうか。「業務時間外は絶対使ってはいけない」など厳しくしすぎると、チャットツールの利点が失われてしまうように感じており困っています。
「優秀だが、周囲に負担をかける」営業部の社員 どう対処すればいい?
当社の営業部には「優秀だが、周囲に負担をかける」社員が複数います。その結果、営業支援や経理のメンバーが疲弊しており、社内で問題となっています。営業部は成果主義で、周囲に負担をかけていても成績が良ければボーナスも上がるという制度になっているのですが、そのゆがみを感じます。この課題を解決するために、どのような手段が望ましいかアドバイスをください。
優秀だけど、注意してもルールを守らない社員 懲戒処分にする際の注意点は?
当社の営業部には「優秀だけど、注意してもルールを守らない」タイプの社員が複数人います。上司も再三注意をしていますが、成績が良いので報酬は高く、あまり上司の注意を聞いてくれない状況です。ただ、人事部としてこうした風土が根付いてしまうことに危機感を感じており、次に問題があった際は懲戒処分にできないかと考えています。懲戒処分を科す場合、どのような点に気を付ければいいでしょうか。
