米スタバ、なぜ「絶好調」の日本事業を売るのか? 本国再建の原資に消える“勝ち筋”の先行き(2/4 ページ)
本場米国が客離れに苦しむなか、日本だけが増収増益を続ける「日米逆転」が起きている。最ももうかっている事業を、なぜ手放すのか。
「成長投資」ではなく「本国再建」のため?
スターバックスはいま、ブライアン・ニコルCEOのもとで「Back to Starbucks(原点回帰)」と銘打った大規模な立て直しの最中にある。
同社は2026年1月の投資家説明会で、2028年までに米国で純増400店、ロイヤルティー制度の刷新、店舗体験の再構築を掲げた。注目すべきは、これらが全て再建のために資金を投じる施策であるという点だ。
店舗増設も人員拡充も設備刷新も、いずれも先行投資になる。だからこそ巨額のキャッシュを必要とする。問題は、その現金をどこから捻出するかだ。本国の不振事業を売って作ることはできない。米国で店舗を増やすと宣言した矢先に、その米国の店を減らしては元も子もないからだ。
そうなると、白羽の矢が立つのは最も好調な日本市場である。つまり今回の売却は、成長への攻めの一手というより、本国の出血を止めるための資金調達に近い。
そして、それが「今」であることにはもう一つ理由がある。
足元の日本市場ではインバウンド需要も追い風になっているが、好調の根幹は「日本人」がスタバをひいきにしてきた事実だ。
人口減少と少子高齢化が進む日本で、日本人をベースとした客数がこの先も右肩上がりで続く保証はない。高い値段がつくうちに売り抜けたい――そんな打算も透けて見える。
買い戻した日本法人、10年あまりで再び売却へ
忘れてはならないのは、スターバックスがわずか10年あまり前に、上場していた日本法人を自ら買い戻していたという事実だ。
2014年、米本社は合弁相手サザビーリーグの保有株(約4割)を含め、上場していた日本法人を総額995億円のTOBで完全子会社化した。日本市場で機動的に勝負するため、あえて資本を一本化する判断だった。
その事業を、投じた額の4〜5倍の評価がつくとはいえ、たった10年あまりで再び売りに出そうとしている。
日本市場が10年で叩き出した価値の大きさを証明すると同時に、それを短期で手放さざるを得ない本国の窮状の深さが、同じ事実の裏表として浮き彫りになる。10年での180度転換を「戦略」と呼ぶには、動機があまりに近視眼的に映る。
直営の重さをIPへ組み替える狙いも
同社は近年、世界中の店を自ら所有するオーナー型の経営から、「スターバックス」というブランドそのものを貸し出すIPライセンサーへと軸足を移しつつある。いわゆるアセットライト戦略への転換だが、その本質は、同じ事業が生む利益を「より高い倍率で評価される形」に組み替える財務的な一手にある。
日本のスタバ店舗のほとんどはフランチャイズではなく直営だ。これは店舗体験の質を担保できる反面、土地・内装・人件費といった「企業価値に倍率が乗りにくい資本」を自社のバランスシートに抱え込むことを意味する。
株式市場は一般に、自前で保有する重い資産を割り引いて評価する傾向がある。近年、大手企業が自社ビルを売って賃貸に切り替える動きが相次ぐのも、財務的な身軽さで企業価値を高め、経営の自由度を取り戻す狙いがあるからだ。
理想的な出口は株式の過半をファンドや事業会社に売って一括の現金を得ることになるだろう。
同時にブランドのライセンス契約は手元に残し、売却後も売り上げに応じたロイヤルティーを吸い続ける。バランスシート(貸借対照表)からは重い直営資産が消え、損益計算書には軽い手数料収入だけが残る。
実は、2026年4月に完了した中国事業の売却が、まさにこの型そのものだった。
スターバックスは中国事業の企業価値を約40億ドルと評価したうえで、その株式60%を香港の投資ファンド・博裕資本に譲渡。残る40%とライセンサーの地位を手元に残した。
日本でも同じ設計図が引かれていると見るのが自然だ。「日本を捨てる」のではない。「日本を、より資本効率の高い器に詰め替える」と表現したほうが実態に近い。
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