毎月280件の改善案、ラインごとの損益公開 売上高過去最高の「無線機メーカー」を支える工場の仕組み(2/4 ページ)
無線機を国内で作り続けるアイコムの工場には、社員全員が毎月1件の改善提案を出し、ラインごとに損益が見える独自の生産方式が根付く。人手不足の時代に、改善が途切れず、現場がコストを自分ごとにする仕組みを取材した。
工場のラインが一度も止まらないのは逆に問題 なぜ?
和歌山アイコムが手掛ける製品は幅広い。陸上用、海上用、航空用など用途ごとに仕様が異なる上、輸出先の国や地域によって使用できる周波数帯も異なる。そのため、細かい違いまで含めると、生産する機種は月200種類を超える。
一方で、1機種当たりの生産量は決して多くない。いわゆる大量生産ではなく、「多品種少量生産」が特徴だ。和歌山県内の有田工場と紀の川工場の2拠点で年間110万台を生産する。
こうした生産は、一見すると非効率にも見える。機種ごとに使用する部品や工程が異なり、生産計画の調整も複雑になるからだ。
そこで同社が磨いてきたのが「IPS(ICOM Production System)」と呼ぶ独自の生産方式だ。IPSの特徴は、あえて現場に負荷をかけることで問題点を見つけ出し、改善を繰り返すことにある。生産工程のどこにムダやボトルネックがあるのかを明らかにし、一つ一つ解消していくことで、生産性や品質の向上につなげる仕組みだ。
例えば、1日8時間の作業を、あえて7時間半程度で終わると想定してラインを流すペースを上げる。すると、どこかの工程で作業の遅れや滞りが発生する。作業者は手元のスイッチでラインを止め、どの工程で何が原因で詰まったのかを確認し、そこで見つかったムダや問題点を改善する。
一般的な工場ではライン停止は避けるべきものと考えられる。しかし同社では、ラインが一度も止まらない状態の方が問題だという。止まった場所にこそ、生産性向上のヒントが隠れているからだ。
もっとも、この仕組みは工場の設立当初から存在したわけではない。創業当初は、自社工場で効率的に生産を行うノウハウが十分になく、収益面でも苦戦していた。そこで、アイコム創業者の井上徳造会長(当時社長)が、電機メーカーで生産管理に携わっていた人材を和歌山アイコムへ招いた。その人物が生産本部長として工場改革を主導し、現場での試行錯誤を重ねながら築き上げたものが、現在のIPSの原型となった。
IPSを現場で機能させる考え方の一つが、「1本のラインを1つの工場として考える」という発想だ。各ラインを独立した小さな工場と捉え、そのラインの担当者たちが採算や生産性に責任を持つ。「自分たちのラインを自分たちで改善する」という意識を持つことで、改善活動を現場主導で進めている。
そのため、コスト管理も徹底している。和歌山アイコムは親会社のアイコムから製造を請け負い、製品1台ごとの加工賃を受け取る。そのため、ラインごとに売り上げや人件費、消耗品費などを集計し、採算を算出している。
各ラインの先頭にはモニターが設置され、前日の損益状況がひと目で分かるようになっている。さらに、ボールペンなどの消耗品も、社員が名札のバーコードを読み取って持ち出しを記録し、その費用はそれぞれのラインの経費として計上される。田中氏によると、「備品は”ただ”ではない」という感覚を共有するためだという。
ラインの採算を全員で共有し、1つの消耗品に対してもコスト意識を持つ。そして、あえて負荷をかけて問題点を見つけ出し、改善を重ねる。こうして現場の一人ひとりがコストを「自分ごと」として捉える文化が根付いている。
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