トヨタの成功と失敗から学ぶ 組織を変える「良い失敗、悪い失敗」の境界線:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/2 ページ)
私たちはつい「失敗=全て等しく避けるべき悪」とひとまとめにしてしまいがちです。ですが、組織で起こる失敗を一括りにして扱うからこそ、責任のなすり合いや、不毛な怒りの応酬が生まれてしまうのです。そこで今回は、失敗を真の成長の糧へと昇華させるための「組織の失敗学」について考えてみます。
トヨタ「アンドン」の成功と失敗から学ぶ
参考になるのが、トヨタの「アンドン」です。
アンドンとは、現場の作業者がミスや異常を検知した際、自らの手でひもを引いて製造ラインをピタッと止める仕組みです。この仕組みは、まさに日常業務における「予防できる失敗」や「複雑さに起因する失敗」をリアルタイムで確実に拾い上げるシステムに他なりません。
ここで重要なのは、トヨタではラインを止めた作業者を決して叱責せず、むしろ「異常を早期に知らせてくれてありがとう」と感謝・称賛する文化が徹底されている点です。「人を責めずに、システムを直す」という思想が、目に見えるハードウェア(仕組み)として機能しているのです。
このアンドンによって足元の「悪い失敗」が日常的に処理・撲滅され、現場から不毛な恐怖心が消え去るからこそ、組織には初めて、次なるステップである「知的な失敗」(質の高い挑戦)に挑むための心理的余裕とリソースが生まれます。
足元の業務がマニュアルの形骸化やプロセスのバグであふれかえり、日々その責任のなすり合いに追われているような泥沼の組織で、いくら口頭だけで「イノベーションのためにリスクを取れ」と叫んだところで、誰も新しい打席に立つわけがありません。
具体的な仕組みで足元の失敗をきれいに救い上げること。これこそが、高次な「知的な失敗」を歓迎する文化を築くための、絶対に飛ばせない大前提なのです。
しかし、ここで私たちが猛省しなければならない生々しい教訓があります。
一部の販売店などトヨタの足元で、深刻な車検不正やミスが相次いで報道されたのは記憶に新しいところです。なぜ、アンドンという世界最高峰のシステムを持つ組織でそんなことが起きてしまったのか。
報道や調査報告から浮かび上がってきたのは、深刻な人手不足と過密なノルマの中で、管理職や現場の空気が「アンドンを点けるな」(作業を止めるな)という無言の圧力をかけていたというゆがんだ実態でした。
どれほど優れた仕組みがあっても、会社が目先の効率や数字を優先し、現場に「ひもを引いたら叱責される、迷惑がかかる」という恐怖心を植え付けた瞬間、アンドンはただの置物と化します。
そして、吸い上げられなくなった足元の小さなミスは、やがて組織を揺るがす致命的な「隠蔽」(いんぺい)へと姿を変えていくのです。
では、会社の構造やリソースを今すぐ変えられない環境の中で、現場のリーダーが今日からできることは何でしょうか。
まずは、あなたの「半径3メートル」を見渡してください。「ねえ、ちょっとちょっと」と声をかけられる「半径3メートル=チーム」内だけでも、失敗を言い合える質の良い関係を作ってください。
会社は変えられなくても、あなたが具体的に動き、目配りをし続ければ、チームは変えられます。具体的に動き、声をかけることを1カ月でいいからやってみてください。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) 、『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)など。
新刊『「老害」と呼ばれたくない私たち 大人が尊重されない時代のミドル社員の新しい働き方』(日経BP 日本経済新聞出版)発売中。
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