「ウソだろ」アスクル社長がうなったAI活用 商談準備を2週間→3時間に “担当者のカオス”脱却へ
サイバー攻撃を受けたアスクルが、AIを活用して自社システムを立て直した。旧来の課題を拭い去り、商談時間を短縮するなどの成果を出している。逆境を勝機に変えた舞台裏を、吉岡社長が語った。
2025年10月、法人向け通販大手のアスクルがサイバー攻撃の被害に遭った。通販サービスが停止に追い込まれ、顧客データが流出。ITシステムの復旧が見通せない中、同社の吉岡晃社長CEOはシステムを一から再構築するという決断を下した。
同社は、肥大化・複雑化・属人化していた商品の調達プロセスや商談準備の刷新を狙い、システム再構築の核にAI活用を据えた。早くも成果が出ており、従来は2週間かかっていた商談準備を3時間に短縮できたという。
サイバー攻撃という“苦い経験”を乗り越えて、AI活用に成功したアスクル。試行錯誤の一部始終を、吉岡社長が語った。
本記事は、アマゾン ウェブ サービス ジャパンが主催したイベント「AWS Summit Japan 2026」(6月25〜26日開催)の講演セッションから「ランサム危機を転機にーアスクルが加速させた AI-DLC」を取材したもの。
「ウソだろ」アスクル社長がうなったAI活用 “担当者のカオス”脱却へ
「逆境を進化に変えよう――攻撃発生から2週間後に、全社朝礼で発信したスローガンだ。復旧は、元に戻るだけ。私たちは事業をリセットされた。裏を返せば、ゼロから新しい理想形を作れるチャンスだ」――吉岡社長は、こう説明する。
その挑戦の中で採用したのが「AI-DLC」(AI駆動開発ライフサイクル)だ。AI-DLCは、人間が仮説立てや判断に特化し、その過程にある調査、生成、開発、プロダクト作成などをAIが主体となって進める手法だ。AIのサポートによって開発や意思決定のスピードが高速化する。
サイバー攻撃からの復旧・再構築に当たり、同社はITインフラの基盤にクラウドサービス「Amazon Web Services」(AWS)を採用した。合わせて、AWSのAI統合開発環境「Kiro」を活用することにしたのだ。
「大企業病の根源」を断て AI開発で一から作り直す
AI-DLCによる改革の一つが「品ぞろえスピードの高速化」だ。小売業には「新商品をいち早く販売する」「天候や季節の変化に伴うニーズに応える」「業種・顧客ごとに商品を最適化する」などの対応が求められる。そのスピードが売り上げを左右するとして、吉岡社長は「積年の課題だった」と述べる。
アスクルには、商品ごとに品ぞろえ担当がいる。彼らがメーカーや社内の物流部門など多様な関係者との窓口になっており、複数のツールで業務を管理していた。
「何十年と業務を拡大すると、やることが増えて担当者がカオスになる。人に依存し、暗黙知が増える。スピードも遅い。大企業病の根源になる。ここを一から作り直す判断をした」(吉岡社長)
そこで、AI-DLCを取り入れた「品ぞろえ担当者の業務改革プロジェクト」を始動させた。ビジネス部門とエンジニアが共にAIと壁打ちし、その場でプロダクトを作ったりフィードバックしたりした。「レビュー待ち」などの時間が大幅に減り、内製したことでノウハウが社内にたまったという。
AI-DLCによって、新システムの開発期間は従来手法で試算した場合の約半分になり、商品の掲載スピードは従来の2倍になった。多様なツールを一元化し、品ぞろえ担当者は「仕入れの在庫を切らさない」「新商品を発掘する」「仕入れ期間の短縮や価格の見直し」などに集中できる環境が完成した。
ナフサ危機に対応 政府の“シンナー供給作戦”を任されることに
AI-DLCによる開発体制が真価を発揮したのが、中東情勢を受けた“ナフサ危機”への対応だった。ホルムズ海峡が事実上封鎖された3月ごろ、商品の供給不安が起きると予見して対策に乗り出した。
「『どんな商品が枯渇するか』『どの業種でどの商材ニーズが出るのか』『どのくらい確保しなければならないのか』などを早期にシミュレーションし、供給元と早めに会話して目詰まりを回避できる。ここにKiroを使った」(吉岡社長)
供給元と商談するための方針策定では、4つのステップ――「需要を分析する」「世界情勢の見通しを立てる」「商品・顧客ごとの需要を予測する」「提案資料を作成する」を踏み、確保する商品を調達していた。各ステップ間に担当者の変更、レビュー待ち、手戻りなどが発生するため、従来は約2週間かかっていたという。
しかし、Kiroを活用したことで約3時間で完結した。吉岡社長は「指示を出して10日くらいかかると思っていたら、夕方には出てきてびっくりした」と言い「『ウソだろ』と思った」と明かす。
AI-DLCに沿った取り組みに変えると、4つのステップをAIが並行して対応するため、作業にかかる時間を大幅に短縮できるという。人間が最終判断する直前までAIが進行するといい、吉岡社長は「従来に比べて劇的に変わった」と評価する。
AI-DLCを生かした仕組みが評価され、厚生労働省が備蓄していた医療用グローブの供給や、経済産業省などが主導する塗装用シンナーの直接供給を手掛けることになったという。
AI-DLCの取り組みが成功した理由について、吉岡社長は「ビジネス部門とエンジニアが一体化して働くこと」「現場に権限と責任を移譲すること」「AIを活用できる環境に投資すること」などを挙げた。
サイバー攻撃を受けるという苦境に立たされながら、逆境を勝機に変えて「理想形」を構築したアスクル。同社は、この成果をさらなる成長につなげられるか。
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