かんぽ生命、AIで営業支援 “郵便局での一言”拾って保険提案へ 寸劇で分かる活用例(1/2 ページ)
1700万人の顧客を抱えるかんぽ生命保険が、営業フローにAIエージェントを組み込んだ。商談準備に奔走する現場がどう変わるのか、デモンストレーションの様子を紹介する。
「営業活動にAIを活用せよ」といわれて久しい。人手不足が進む現在、対面営業の現場でAIをどう生かすかが問われている。しかし“営業改革”につながるほどのAI活用に成功している企業は少ない。
そんな中、かんぽ生命保険(以下、かんぽ生命)がAIエージェントの活用に乗り出した。保険商品は、契約から満期まで数十年にわたる長い付き合いになる。同社は、全国2万局の郵便局と1万人の保険コンサルタントが顧客と直に交わす「対話の温度」を最大の強みとしてきた。
同社の谷垣邦夫代表執行役社長は「AIは、温度を消すものではなく深めるもの」と語る。かんぽ生命は、営業フローの中にAIエージェントを見事に組み込んでみせた。郵便局で交わした何気ない一言を次の提案に生かし、担当者が代わっても親から子へと信頼を受け継ぐ――これは、保険商品に限らず多くの営業現場で求められる姿だ。
「AIエージェントの活用」と聞くと“大規模な業務変革”をイメージするかもしれないが、かんぽ生命は少し違う。セールスフォース・ジャパン主催のイベントで披露したデモンストレーションに、エージェント活用の現実解があった。
本記事は、セールスフォース・ジャパンが主催したイベント「Agentforce World Tour Tokyo」(6月9〜10日開催)の基調講演「Welcome to the Agentic Enterprise」を取材したもの。
1700万人に保険提供 担当者は面談準備に奔走
かんぽ生命は、2026年に創業110周年を迎える。全国の郵便局網を通じて、1700万人もの顧客との信頼を築いてきた。生命保険は短くても10年、長ければ50〜60年にわたって続く商品だ。世代をまたいで関係を引き継ぐケースもある。しかし、保険コンサルタントは案件情報の整理や面談準備に追われ、顧客と向き合う時間が圧迫されがちだった。
この状況を打開する方法として、同社はAIエージェントに白羽の矢を立てた。人間のコンサルタントをAIに置き換えるわけではない。谷垣社長は、AIで生まれる時間の使い方について「コンサルタントが情報整理に費やしてきた時間を、お客さまと向き合う時間へと転換したい」と語る。
AIエージェントとは、逐一指示しなくても状況を読み取り、自ら判断して作業まで実行するAIを指す。決められた応答を返す従来のチャットbotと異なり、目的に向けて自律的に動く。同社は、AIエージェントをどう活用しているのか。
AIエージェントがどう役立つ? “寸劇”で分かる活用例
AIエージェントを生かした業務のデモンストレーションは、かんぽ生命のコンサルタント「星野さん」の1日から始まった。朝、星野さんが業務チャットツール「Slack」を開くと、その日の予定と優先すべきタスクが一覧で表示される。その日の面談相手は、顧客の和夫さん(70歳)だ。
面談の準備に入ると、AIエージェントが要点を整理。70代で高まる健康リスクのデータや「いざというときに備えて息子さんへ情報を共有する」という推奨アクションを提示した。星野さんはそれを基に和夫さん宅を訪問し、東京で働く息子の健太さんへ保険内容の共有を提案する。
しかし、和夫さんは「多忙な息子をわざわざ帰省させるのは忍びない」と難色を示す。そこで星野さんがSlack上のAIエージェントに相談すると、ここまでの会話を踏まえてオンライン面談の実施を提案。さらに、和夫さんから息子へ送る連絡メッセージの文面まで作成した。
健太さんは、スマートフォンに届いたメッセージのリンクをタップ。すると、問い合わせ対応エージェント「Agentforce Service Agent」で構築した「面談調整エージェント」が立ち上がり、提示された候補から選ぶだけで日程調整が完了した。
事前準備や日程調整に追われずに済む効果について、かんぽ生命の廣中恭明副社長は「顧客訪問の事前準備や確認には時間がかかる。そこから解放されることで、お客さまとの対話に集中できる心の余裕が生まれる」と述べる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
“机の下でこっそり”AI使う――セールスフォース社長のAIエージェント活用術とは
AIエージェント製品に注力する米Salesforce。日本法人社長も「日常的に使っている」という。その活用方法とは。
セールスフォース27歳エース営業 「何のために働くか」迷った日々と、見つけた答え
セールスフォースには、27歳という若さでエースと称されるエース営業社員がいる。「顧客、社内関係者との関係作りが上手」「人事担当者が採用した中途採用社員で過去一キャッチアップが早い」と、同社の人事担当者も太鼓判を押す。
「MAの普及は、スパムメールを激増させただけ」 日本のBtoBマーケティングが欧米の「15年遅れ」なワケ
日本のBtoBマーケティングは、欧米と比較して15年遅れていると言われている。そんな状況にもかかわらず、マーケティング部門やCMOを廃止する動きがみられる。なぜ、日本のBtoBマーケティングは、進まないのか。
自社で持つ顧客データが「ゼロ」だった永谷園 公式アプリで仕掛ける“指名買い”を生む戦略
複数のロングセラーブランドを抱える永谷園が、同社初となる公式スマートフォンアプリの提供を開始した。背景にあったのは、「顧客データ保有ゼロ」とも言える状態への危機感だ。アプリ開発に踏み切った、老舗メーカーならではの課題とは。



