アサヒ・アスクルを襲った「PC1台の死角」 日本HPが説くセキュリティ投資の真意(1/2 ページ)
2025年後半、ランサムウエアによるサイバー攻撃が、アサヒグループホールディングスやアスクルを襲った。システム障害と業務停止は、PC1台のハッキングが企業の命運を揺るがす事実を、日本中に突きつけた。「エンドポイント」を、いかに死守すべきか。日本HPの岡戸伸樹社長は「セキュリティは経費ではなく投資だ」と断言する。
2025年後半、ランサムウエアによるサイバー攻撃が、アサヒグループホールディングスやアスクルを襲った。相次いで発生したシステム障害と業務停止は、PC1台のハッキングが企業の命運を揺るがす事実を、日本中に突きつけた。
企業の弱点となった「エンドポイント」(ネットワークの末端に接続されたPCなどの端末)を、いかに死守すべきか。日本HPの岡戸伸樹社長は「セキュリティは経費ではなく投資だ」と断言する。
メモリーの供給不足によってPC部材が高騰する逆風が吹く中、同社は「ハイブリッドAI」と「最強の防御」を武器に、どのような勝ち筋を描いているのだろうか。岡戸社長に聞いた。
岡戸伸樹(おかど・のぶき)日本HP 代表取締役 社長執行役員。2003年に日本ヒューレット・パッカードに入社。エンタープライズ事業を経て、2009年にパーソナルシステムズ事業に異動した。2015年の分社以降、日本HPでEコマース、個人向けPC、デジタル印刷などの戦略分野を担当し、各事業の成長をリード。2019年より常務執行役員 デジタルプレス事業本部長を務め、商業・産業印刷のデジタル化を推進した。2021年11月、日本HP社長に就任(撮影:武田信晃)
「セキュリティは投資だ」 CIOを救う“閉じれば消える”仮想の盾
アサヒやアスクルは、ランサムウエアによるサイバー攻撃を受け、システム障害が発生し、業務停止に追い込まれた。企業のPCがハッキングされると業績を一気に悪化させる――最悪の場合、倒産に追い込まれる可能性すらあることを日本全体が認識した出来事だった。
岡戸社長は事件後、多くのCIO(最高情報責任者)と話をする機会があったと明かす。CIOはネットワークやアプリケーションのレイヤーを固めている一方、エンドポイントは「デバイスの数が圧倒的に多いため対策が最も難しい」と話していたという。
スパムメールも最近は、社長の名義で送られてくるなど巧妙化している現状がある。そうとは知らず、従業員が開いてしまうケースもあり、企業として防ぎようがない人為的な失敗事例も多いそうだ。
「社員や業務委託スタッフなどの端末の動作を監視して異常を検知し、対処するソリューションである『EDR』(Endpoint Detection and Response)を導入していても、一定数の社員がスパムメールなどを開いてしまいます。一人一人のコントロールまでは難しいと思います」
その解決策として提示するのが、PC上に隔離された仮想空間でファイルを実行する「HP Sure Click Enterprise」だ。岡戸社長は「万一、添付ファイルを開いたとしても、ブラウザのタブやファイルを閉じれば、その瞬間に脅威は消滅します。この機能は、これまで一度も破られたことがありません」と、その堅牢(けんろう)さに自信を見せる。
また、アサヒはVPN装置のぜい弱性を狙われて、不正アクセスを受けた。岡戸社長は、VPNを廃止し、安全なアクセスを提供する「ゼロトラスト接続」への移行を提言する。
「今回のような事故であっても、業務停止を防げるケースは多いと感じています」
岡戸社長は「そもそも日本企業は、セキュリティに対しての捉え方が海外企業と違う」と続ける。
「海外ではセキュリティのための費用は『投資』なのですが、日本は『コスト』と考えられています。日本企業は大きな事故がない限り、セキュリティが予算を投じる対象になりません。常に安いセキュリティソフトを選ぼうとされてしまいますね」と苦笑いする。
「セキュリティ=安いソフトで済ませるコスト」という日本特有の意識を「AIやERP(企業資源計画)と同等の戦略的投資」へと転換できるか。それが日本企業の生存率を左右することになりそうだ。
「紙の壁」をAIで壊す AIPC普及を担う“キラーアプリ”の正体
日本HPは、2024年をAIPC元年と位置付け、2025年には法人向けノートPCの通信サービス「eSIM Connect」を、販売戦略の差別化要素とした。しかし、AIPC自体をまだ一般消費者に対して訴求しきれていないように見える。「AIPCで何ができるかを、はっきり示せていないからではないか?」という疑問がわく。この問いに対し、岡戸社長は「(普及させる決定打となるような)キラーアプリケーションによる課題解決のフェーズに入りました」と明言する。
同社が推すキラーアプリの急先鋒が、韓国のAI企業Upstage AI社と提携した「SolarBox」だ。これは、日本企業に根強く残るFAXや紙の非構造化文書を、オンプレミス環境で安全に構造化データへ変換するドキュメントAIだ。これまでAI活用の障壁となっていた「紙の壁」を「AIPCが物理的に取り払い、文書活用の課題を解決する」(岡戸社長)という。
「日本はいまだにFAXなど紙が多い国で、この商習慣がAIのデータベースを作っていくためのボトルネックになっています。SolarBoxは、機密情報を外部に出さずに、さまざまなデータを構造化し『使えるデータ』へ変えてくれます。日本市場におけるAIPCのキラーアプリになるはずです」
日本HPは、電車通勤をする人が多いなど日本社会特有の状況を勘案し、2019年に薄型軽量PC「ドラゴンフライ」を日本向けに投入してきた。一方でその後のAIPCにおいては、最大34時間駆動できるバッテリーを搭載した「OmniBook 5」14-heを展開している。軽量化ではなく、バッテリーに注力した意図は何か。
「日本は、PCの軽さを重視する市場であることは間違いありません。しかし以前から当社は『バランスを取りながら開発すること』をコンセプトにしてきました。軽さだけを追求するのは、難しくありません。一方バッテリー容量を増やしたり、堅ろう性を求めたりすると、軽量化とのトレードオフになります。だからこそバランスを重視するのです」
AIを使うと、多くのバッテリーを消費する。AIの計算に特化した専用プロセッサ「NPU」(Neural Processing Unit)は省電力であることから、日本HPのAIPCは基本的にNPUを搭載し、バッテリーの持ちを長くする対策を講じている。
今後のPC販売は「セキュリティ」「NPU」「軽さ」といったそれぞれの分野で、総合力が問われるということだ。「Windowsのマイグレーションを終えた今後は、総合的なバランスこそが、顧客企業の選定基準になっていくでしょう」
価格はどうか。AI需要の高まりから、メモリ製造メーカーは、高付加価値のメモリに対して生産体制を集中させており、通常のPC向けのメモリは供給不足から価格が高騰している。資材価格も上昇しており、PCの販売戦略上は逆風が吹いている状況だ。「部材の高騰があるので、価格に転嫁していくのはビジネスを継続する上で必要です。ただ不確定な要素が多く、様子を見ながら決めていきます」(岡戸社長)
BtoCでいえば、米AppleのマッキントッシュPCは一定のブランド力がある。日本HPのブランド力を向上させる方策をどう考えているのか。
「例えば、世界的にはF1のフェラーリやサッカーのレアル・マドリードのスポンサーをしています。さらに全世界でFuture of Work(新しい働き方)を実現する技術と製品を提供しています。日本においては『はたらく人に、こだわる自由を』というキャンペーンを打つなど、ブランディングへの投資を強めています」
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