「サングラス=不良」の偏見を巧みに壊したZoff 社長が明かす“したたかな”ブランド戦略
「眼鏡は壊れるまで買わない」。市場が縮小を続ける中、メガネブランド「Zoff」を運営するインターメスティックは“認識の書き換え”で突破口を開いた。「不良の象徴」だったサングラスを、目を守る「サンカット」へと再定義。目黒蓮の起用や異色コラボによって顧客接点を増やした。上野博史社長にブランド戦略を聞いた。
「眼鏡は、壊れたり度数が合わなくなったりしなければ買わない」──。
日本のアイウェア市場には、25年以上にわたりこの「不定期購買」という課題があった。2001年に6000億円だった市場規模は、近年は5500億円ほどまで縮小を続けている。
そんな中、メガネブランド「Zoff」を運営するインターメスティックが仕掛けたのは、価格競争ではなく、消費者の“認識”を書き換えるようなカテゴリー戦略だった。「不良の象徴」だったサングラスを、紫外線から目を守る「サンカット」へと再定義することで新たな市場を創出しようとしている。
加えて同社はトップタレントの目黒蓮を起用。『名探偵コナン』やロリータファッションとのコラボ戦略を取ることで消費者への訴求を進めてきた。
学校教育を巻き込んだ地道な啓発活動から、コンタクトレンズの「月次購買データ」を活用したLTV(顧客生涯価値)戦略まで幅広いマーケティングを展開するインターメスティック。「眼鏡をTシャツのように着替える文化」を生み出していきたいと話す上野博史社長にインタビューした。
上野博史(うえの・ひろし) インターメスティック社長。英国の大学院を修了後、テレビ番組やCMの制作会社でキャリアを積む。2001年、Zoffブランドの立ち上げに参画し、インターメスティックの取締役に就任。PR、マーケティング、商品開発、店舗設計など、サービス全体のクリエイティブを担当するとともに、Creative Design Officerとしてブランド全体のデザイン・ブランディングを統括。2020年11月、インターメスティックおよびゾフの社長に就任し、現在に至る(筆者撮影)
「サングラス=不良」の偏見に挑む カテゴリーを書き換える戦略
同社の調査では、日本のサングラス着用率は現在24.5%だという。先進国平均がおよそ70%であることを考えると、その差は歴然としている。背景にあるのは「サングラス=不良」という根強い偏見だ。
サングラスの販売戦略を考えたときに、Zoffには、その固定観念を覆すための確かな根拠があった。実は、サングラスのレンズの濃さとUVカット率には相関関係がなく、薄いカラーのレンズであっても紫外線を約100%カットできるのだ。この事実は業界では常識であるにもかかわらず、一般消費者にはほとんど知られていなかった。
「サングラスという概念を変えようと考え、UV100%カットの商品の名称を『サンカット』に変えました」(上野氏)
上野氏が着目したのは、機能そのものを商品名に宿らせることだった。あわせて、薄色やクリアレンズのラインアップを拡充。日常のファッションに自然に溶け込むデザインへと再設計することで「サングラスをかけると、こわもてに見える」という心理的ハードルを下げた。
さらにZoffが力を入れたのが、学校を起点とした啓発活動だ。WHO(世界保健機関)の知見では、人が生涯で浴びる紫外線の50%以上を、10代までに浴びる可能性があるという。そのため、子どもの頃から紫外線対策を習慣化することが重要だと考えた。啓発は順序立てて進めたという。
「まず学校の教師の方に、紫外線量の増加が目の健康に与える影響を伝えるところから始めました。先生方に必要性を理解していただき、生徒さんへ啓発していただく。生徒さんがその必要性を理解すると、今度は家庭で保護者に話が伝わっていきます。子どもから大人へと着用文化が広がっていく流れを、現場で強く感じています」(上野氏)
この広がりは、メディア露出との相乗効果を生んだ。学校での取り組みが報道され、その報道が、次の学校へ導入を働きかける際の説得材料になる。商品開発、マーケティング、そして、PRが三位一体となって循環することで「サングラスは目を守るためにかけるもの」という新たな認識を社会に広げていった。
目黒蓮、コナン、ロリータ 購買の“空白”を埋めるタッチポイント
ただし、認識を変えるだけでは、購買にはつながらない。次の課題は「買ってもらう機会」をいかに増やすかだ。眼鏡という商品は、年に1回程度しか消費者の意識に上らない。タッチポイントが圧倒的に少ないのだ。Zoffが打った手の一つが、広告における目黒蓮の起用だ。
「あらゆる層に訴求できる方を選定できたことは、会社としても非常に大きいです」(上野氏)
特定のファン層だけでなく、幅広い世代に届く目黒蓮を起用し、サンカットという新しい概念を一気に社会へ浸透させた。コラボレーションも積極的に展開している。6月に始めた『名探偵コナン』とのコラボは、従来の眼鏡購買層とは異なる入り口から顧客を取り込む狙いがある。
「コラボの役割は、タッチポイントを増やすことにあります。最近はコラボ商品の中でもサングラスの比率を意図的に増やしています」と上野氏は話す。そして、独自性が際立つのが、ロリータファッションとのコラボだ。
「日本を象徴するカルチャーの一つは、ロリータファッションだと私は認識しています。SHIBUYA109やラフォーレ原宿を見ると、ロリータファッションの世界観を持つブランドが集まるフロアもあります。半世紀近くそのカルチャーが続いているのに、そこにアイウェアだけがありませんでした」(上野氏)
体から頭の先まで完璧にコーディネートしながら、目元だけが無防備。この空白に気付いたことがコラボの出発点だ。日本独自のカルチャーにアイウェアの役割を果たすことで、この発想は、Zoffが眼鏡ではなくライフスタイルを提案していることを物語る。
また、屋外で発色し屋内でクリアになる「調光レンズ」の販売も好調だという。普段は通常の眼鏡として使いながら、外に出るとサングラスに変わる。「普通の眼鏡の延長」として受け入れられやすく、サンカット文化への入口になっている。
上野氏が最終的に目指しているのは「眼鏡をTシャツのようにファッションとして買い換えるカルチャー」である。春夏秋冬それぞれに眼鏡を選び、複数本を使い分ける。そのライフスタイルが自然になれば、購買周期は劇的に短くなり「複数本保有」という新しいライフスタイルへの道が開ける。
アイウェア市場は2030年までに2173億5000万米ドル、2022年には1215億米ドルに達し、2023年から2030年の予測期間中に7.54%のCAGRを記録するという(インド発の調査会社Data Bridge Market Researchの資料より)
コンタクト「月次データ」でつなぐ M&AがもたらすLTV最大化
着用率が上がり始めても、それだけでは持続的な成長にはつながらない。重要なのは、一度きりの購入を継続的な購買へと変え、LTVを高めていくことだ。
その先に見据える成長戦略の核となるのが、ビジョナリーホールディングス(VH)の完全子会社化だ。買収によりZoffは、低価格帯から高価格帯まで幅広い市場をカバーできる体制を整えた。なかでも上野氏が決定的な転換点として注目しているのが、VHが強みを持つコンタクトレンズ事業の獲得だ。
眼鏡の買い替え周期が数年単位であるのに対し、コンタクトレンズは毎月、あるいは数カ月という非常に短いサイクルで購買が発生する。この高頻度の購買データを起点にできれば、眼鏡やサングラスへのシームレスな買い替え提案や新商品の案内など、顧客との接点を継続的に生み出せる。眼鏡・サングラス・コンタクトをそれぞれ別の商品として売るのではない。一人の顧客のアイケアを生涯にわたって支える「トータルアイウェア」という考え方へのシフトだ。
このLTV戦略を現場のオペレーションに落とし込み、継続的に改善していくためのエンジンの役割を果たすのが、AIとデータの活用である。上野氏が全社共通の指標として掲げるのは、小売業の4つのレバーである「集客」「購買率」「客単価」「購買周期」。この4つをAIとデータで検証し、精度を高めていくことが、Zoffの基本戦略となる。
すでに全社員がAIを活用できる環境を整備し、業務効率を高めている。さらにAI・DXチームは、顧客アンケートや店舗スタッフの声を自動的に収集・分析し、その結果を商品開発や店舗運営へと反映する仕組みを構築した。
「今、当社には『勝つか、負けるか、学ぶか』の3種類しかないと思っています。週次でPDCAをしっかりと回し、お客さまや現場スタッフの声を次の商品開発につなげる仕組みを作っています」(上野氏)
こうした改善サイクルは、購買体験そのものの見直しにも及ぶ。
「靴はデジタルで買って翌日には届く時代になっていますが、眼鏡だけはお店に行かないと買えません。しかも店内が混雑していて、声もかけてもらえないこともあります」(上野氏)
上野氏は、眼鏡業界が抱えるこの構造的な課題を率直に語る。人手不足が進む時代において、ECでも自然に眼鏡を購入できる体験を整えることが、もはや選択肢ではなく必須条件だという。
Zoffが示したのは、成熟市場でも成長は可能だという一つの答えだった。縮小市場だから売れないのではない。カテゴリーそのものの定義を変え、顧客との接点を増やし、継続的な関係を築く仕組みをつくれるかどうか。その実践こそが、Zoffの挑戦であり、日本の小売業全体にとっても示唆に富むケーススタディーではないだろうか。
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