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富裕層にいかに金を使わせる? ダイナースとニューオータニ「18万円超カード」の真意

内閣府のデータが示す「85歳でも資産が減らない」というデフレマインドに縛られた日本型富裕層。インフレ時代を迎え「資産を体験に変える」ためのコンパスとして、ダイナースクラブとホテルニューオータニが年会費18万円超のプレミアムカードを解禁した。「全員平等」を守ってきた老舗ホテルの方針転換の裏には、半世紀続く厳格な審査体制と「平均値しか出せないAI」には不可能な人間のおもてなし戦略があった。

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 ハイクラスなクレジットカードとして知られている「ダイナースクラブ」。富裕層に手厚いサービスを提供し続ける三井住友トラストクラブが、特にシニア富裕層の購買動向を分析する中で、ある不思議なデータが浮かび上がってきた。

 内閣府の「年次経済報告」によると、リタイア後である60〜64歳の平均資産額は1800万円強。これが85歳でも1500万円強と、2割程度しか減少していないのだ。人生100年時代を迎えた「生活防衛」が背景にあるものの、見方を変えれば、バブル期のインフレを知る世代でありながら、失われた30年の影響で「資産を豊かに使う方法」を忘れてしまったデフレマインドの表れとも言える。

 しかし時代は変わり、金利が付き、インフレが到来した。今後は「何もしなければ資産が目減りする時代」であり、付加価値の高い「体験」にこそお金を払うべき局面を迎えている。

 そんな中、三井住友トラストクラブは、ホテル御三家の一角「ホテルニューオータニ」と提携し、年会費18万1500円の招待制カード「ニューオータニクラブ ダイナース プレミアムカード」の発行を開始した。

 従来、ホテルニューオータニは、顧客は一人一人が皆、等しく尊いという信念のもと、自らの会員組織にはあえて会員内に階層を設けなかった。なぜ今、差をつけたプレミアムカードを解禁したのか。そこには、1970年から続く「安心・信頼のもと行う入会審査」という老舗のガバナンスと、プレミアムな体験価値を提供するためのLTV(顧客生涯価値)戦略があった。両社のトップに狙いを聞いた。

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三井住友トラストクラブの山口信明社長(左)とニュー・オータニの清水肇社長(三井住友トラストクラブ提供写真)

「85歳でも資産が減らない」 日本型富裕層の現実

 日本人は老後に備えるため、貯金や株式、最近ではNISAを利用して資産を運用する。お金に余裕がある富裕層なら、その傾向はより顕著だ。しかし、そこに現代の日本型富裕層の特徴があると、三井住友トラストクラブの山口信明社長は指摘する。

 「われわれのお客さまは資産運用や管理には非常に長けています。しかし限られた人生の中で、ご自身の体験や精神性を高めるための『お金の使い方』を知っている方は決して多くありません。資産を増やすことと、人生を楽しむために資産を使うこと。われわれはこの2つをうまく融合させたいと考えています。そこに、とても面白いビジネスが生まれるはずです」

 コロナ禍が収束し、インフレの世界が本格的に到来した。何もしなければ、資産が目減りする時代になった今、富裕層の側にも「資産を体験に変える」ための明確な動機が生まれた。そこで重要になるのが、企業側の「目利き力」だ。

 「富裕層の獲得競争は激化していますが、われわれが60年以上日本でビジネスをする中で培った目利き力と、それに基づく体験価値の提供は、一歩先をいっていると自負しています」(山口社長)

 個人が全ての領域において目利き力を持つことは不可能だ。例えば、初めてヨットを買う際、何フィートの大きさが最適なのか。何種類とある高級車の中で、どれが自分に合うのか。法人として膨大なノウハウとデータを持つダイナースクラブだからこそ、的確に富裕層の「使う喜び」を指南できるのだ。

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三井住友トラストクラブ山口信明社長(筆者撮影)

「全員平等」の方針を転換 「最高級ホテル利用者」が倍増したワケ

 そのダイナースクラブが放った新たな一手が、ホテルニューオータニとの提携による「ニューオータニクラブ ダイナース プレミアムカード」の発行だ。1970年の提携開始から半世紀以上にわたる信頼関係をもとに「本物」の体験を提供することを目指している。

 背景にあるのは、国内における外資系ラグジュアリーホテルの急速な台頭だ。富裕層がホテル滞在に求める付加価値の基準は、年々跳ね上がっている。

 これまでホテルニューオータニは、全ての顧客を平等に迎えるという信念のもと、1964年に発足した独自の会員組織「ニューオータニクラブ」において、あえてエリート制や会員内の階層区別を設けてこなかった。

 しかし、コロナ前の2018年と現在を比較すると、訪日外客数が約35%伸びたことを背景に、Webサイト「フォーブス・トラベルガイド」で7年連続5つ星を受賞した最高級のホテル・イン・ホテル「エグゼクティブハウス 禅」に限れば、利用率はほぼ倍増しているという。富裕層のニーズが単なる「快適な客室」を超え「そこでしか得られない、自分だけにパーソナライズされた体験」へ完全にシフトしている証拠だ。

 今回解禁したプレミアムカードは、年会費18万1500円(利用可能枠は一律の制限なし、国内旅行傷害保険は最高1億円)。特典として「エグゼクティブハウス 禅」のスタンダードダブル/ツイン(36平方メートル)のフリーステイ(年1回)や客室アップグレードなどを付帯した。これは「区別」ではなく、顧客の求める「体験の深化」に老舗が応えた結果だ。

 一方ダイナースクラブは、旅行・レストランなどの予約から、各種チケット手配など、あらゆるシーンについて専用デスクが24時間365日サポートする専用のコンシェルジュサービス、国内外1700カ所以上の空港ラウンジを無料で利用可能にしている。

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エグゼクティブハウス 禅 宿泊者専用ラウンジ「ZEN LOUNGE」(プレスリリースより)

1970年からの信頼関係 公平さを保つための「厳しい審査」

 なぜ、この2社でなければならなかったのか。歴史を見ると、そこには日本のホテル経営における高度なガバナンスがあった。ニュー・オータニの清水肇社長は、1970年に提携を開始した当時の背景をこう明かす。

 「顧客組織を運営する上でポイントとなるのは、入会の審査基準です。お客さまに分かりやすく、公平性が保てる入会審査システムの導入は、安心や信頼を獲得し、生涯顧客の増加につながります。当時はまだ現金決済が中心で、カード決済は一般的ではない中でも、国内の富裕層から圧倒的な信頼を得ていたダイナースクラブに、第三者の立場での与信を委ねたのです。あえて厳しい審査を進めていただくことで、ステータスもさらに高まりました」

 厳格な外部の目を通すことで、会員組織の質とガバナンスを維持する。この老舗の知恵がベースにあったからこそ、1995年には会員組織とクレジットカードを一体化させた「ニューオータニクラブ ダイナースカード」が誕生。そして2026年、さらにその上を行く「プレミアムカード」へと進化を遂げた。

AIには出せない「予想外の感動」 コンシェルジュを“番頭”に

 2025年10月、三井住友トラストグループ内において、三井住友トラストクラブと三井住友トラスト・カードが合併した。山口社長は「経営資源を統合し、グループ全体のシナジーを最大化させることが狙い」だと説明する。

 「グループ全体から見ると、クレジットカードを発行する会社が2つあり、サービスの提供にブレが生じる時がありました。2社の経営資源を統合したほうが、より実効的にそのリソースを使えるようになるのです」

 これによって大量の決済データが一本化され、ダイナースクラブの「目利き力」はさらに進化する。資産を「守る」フェーズから、人生を楽しむ「体験への投資」へとシフトさせるための強力な武器だ。現代のデータ活用においてAIは不可欠なツールだが、山口社長は「決済データ分析とAIの相性は相当に良い」と認めつつも、その限界をこう指摘する。

 「AIは、正規分布のど真ん中の答えを出すのには最高のツールです。絶対に外れはしないけれど、それでは面白くない(苦笑)。富裕層が求めるのは、外れ値にあるような驚きや感動です」

 同社の五十嵐幸司会長が語っていた「一人一人に寄り添うサービス」こそが、AIの出せない面白さを生む。山口社長は、これからのコンシェルジュ機能の強化についてこう表現する。

 「五十嵐は、維持をするところと尖らせるべきところを、うまく使い分けて経営してきました。顧客の意思決定を支援する考えで言えば、コンシェルジュ機能をより強化していきたいと考えています。昔で言うなら番頭ですね(笑)」

 同社のコンシェルジュとして独り立ちするまでには、OJT(職場内訓練)を含め1年超の厳格な研修を要する。研修内容は、資産運用や遺産相続の相談から、旅行・コンサートチケットの手配、レストランの予約、高額品購入のアドバイスまで多岐にわたるという。その要点は「その人の趣味や嗜好(しこう)を完全に理解した上で、自分一人の力では実現できない体験を提供すること」にある。これこそが、同社のLTV戦略なのだ。

 同社が提供する「本物の体験」は、日々のコンシェルジュ対応だけにとどまらない。3月には、日本創業65周年を記念して世界的ジャズピアニスト・小曽根真氏のソロコンサートをあえて300人規模の至近距離で開催した。7月からは会員誌『シグネチャー』の取材記事と連動し、19年連続三つ星の「日本料理 かんだ」や、銀座の最高峰「鮨 一幸」など、予約困難な名店を貸し切る特別グルメ企画「美食の扉をひらく〜The Exclusive Table〜」を始動する。

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会員誌『シグネチャー』の取材記事と連動し、19年連続三つ星の「日本料理 かんだ」や、銀座の最高峰「鮨 一幸」など、予約困難な名店を貸し切る特別グルメ企画『美食の扉をひらく〜The Exclusive Table〜』を始動する(プレスリリースより)

 個別の会員優待だけでなく、日本の食文化そのものを応援し、市場を活性化させる取り組みも実施している。7月1日から1カ月間にわたって開催中のフランス菓子イベント「ダイナースクラブ フランス パティスリーウィーク2026」がその好例だ。

 過去最高となる488のパティスリーが参加し、今年は「シャルロット」を共通テーマにシェフに夏ガトー(夏季限定のケーキ)を競わせる。職人の手作りの価値を生活者に届けるプラットフォームを、カード会社自らが主導しているのだ。

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7月1日から開催中のフランス菓子イベント「ダイナースクラブ フランス パティスリーウィーク2026」(プレスリリースより)

 人間のおもてなしや食文化への投資にとどまらず、Web3領域へのアプローチとして、カード利用でたまったリワードポイントを日本円のステーブルコイン(JPYC)に交換できるサービスも開始した。

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Web3領域へのアプローチとして、カード利用でたまったリワードポイントを日本円のステーブルコイン(JPYC)に交換できるサービスも開始(プレスリリースより)

最後は「人間のおもてなし」で勝負 カードの価値を次の次元へ

 富裕層ビジネスは利益率が高く経営が安定しやすい反面、要求の水準は極めて高い。

 少子高齢化が進む日本において、選ばれる存在であり続けるためには、テクノロジーのデータを活用しつつも、最後は「人間のおもてなしの心」でサービスを尖らせることが必要だ。

 AIには到達できない領域での人間らしい体験価値の追求こそが、ダイナースクラブのステータスを次の次元へと押し上げている。

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