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「逆転劇」起こるか “先駆者”PayPalが後発Stripeから買収提案 その裏にある、決済インフラ「主役交代」のシナリオ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」

決済スタートアップの米Stripeと、米投資ファンドのAdvent Internationalが、決済の“元祖”PayPalの買収を提案した。この買収の背景をひもとくと、決済ビジネスの価値が変化している、納得のシナリオが見えてきた。

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筆者プロフィール:古田拓也 株式会社X Capital 1級FP技能士

FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経てX Capital株式会社へ参画。


※記事の内容は全て記事執筆時点(7月16日)のもの

 フィンテックの歴史を象徴する一報が飛び込んできた。

 決済スタートアップの米Stripeと、投資ファンドの米Advent Internationalが、決済の“元祖”PayPalの買収を提案したのだ。一部報道によれば、StripeはPayPalを1株60.50ドル、総額530億ドル超で買収する意向を示している。直近の株価に約28%のプレミアムを乗せた水準だ。

 これにより、グローバルな決済インフラの勢力図が一変するかもしれない。

 PayPalは1998年の創業以来、イーロン・マスク氏やピーター・ティール氏らに代表される“ペイパル・マフィア”を輩出し、オンライン決済という市場を切り拓いた“先駆者”である。

 一方で買い手のStripeは2010年創業。PayPalを追う立場だった後発だ。

 後発の新興企業が元祖を買収できれば、決済業界の主役交代を告げる逆転劇である。なぜこのような事態が起きたのか。背景をひもとくと、決済ビジネスの価値が変化している、納得のシナリオが見えてきた。

「逆転劇」起こるか なぜ“先駆者”のPayPalが「買われる側」に?

 今回の提案は、突然の出来事ではない。実はStripeは2月の時点で、PayPalの資産の一部買収に関心を示していた。それが7月に、具体的な価格を伴う正式な提案として表面化した経緯がある。

 ただし現時点でPayPal側からの返答はなく、取引が成立する保証はない。あくまで「提案が出された」段階である。

 PayPalがこの立場に追い込まれた背景には、長い衰退がある。同社の株価は2021年7月のピークから約85%も下落した。

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PayPalの株価は2021年7月のピークから約85%も下落(出所:TradingView)。記事執筆時点(7月16日)のもの

 数字を見れば理由は明白だ。PayPalの売上高成長率は2025年に4%台へ鈍化した。競争環境の激化もあって、決済1件当たりの手数料率は低下を続けている。

 かつては「オンライン決済といえばPayPal」と言われるなど、圧倒的な地位を築いていた。しかし、米Appleや米Googleなどのテック大手が展開する決済サービスの台頭に加え、実店舗に強みを持つSquare(米Block)や、Stripeといった新興勢力によって、その牙城は少しずつ切り崩されていった。

 要するに、PayPalは4億3000万を超えるアカウントという巨大な資産を持ちながら、その資産を成長に変換できなくなっていた。単独での再建が険しいからこそ、株価が沈んだ“買い時”に、買収の標的となったのである。

決済ビジネスの価値 重心が変わった

 より重要なのは、決済ビジネスにおける「価値の重心」が、この10年で決定的に移り変わったという事実だ。

 PayPalはこれまで、ユーザーが「PayPalで払う」と意識できる決済体験を提供してきた。一方、Stripeは、事業者や開発者に選ばれる「見えない」インフラの世界を開拓してきた。

 Stripeの決済体験は、PayPalほど自己主張が強くない。URLやボタンを注意深く確認すると、システムの背後でStripeが使われていることが分かる程度だ。

 消費者から見れば、ECサイトやアプリでカード決済をするだけで、その裏側でStripeのシステムがシームレスに処理を完結させているのだ。

 Stripeが2025年に処理した決済総額は1.9兆ドルに達し、2025年のPayPalの決済総額1.79兆ドルを超え、逆転した。

 つまり、この10年で決済サービスの重心は「消費者に覚えてもらうブランド」から「事業者に選ばれ、あらゆるサービスに埋め込まれるインフラ」へと移ったというべきだ。

 Stripeが後発でありながらPayPalを飲み込める立場になったのは、この変化の影響が大きいだろう。

Stripeの真の狙いは?

 では、インフラの覇者Stripeが、今のPayPalに何を求めるのか。狙いは、自社で欠けているピースの補完にある。

 第一に、PayPal傘下のBraintreeの存在がある。開発者向けの決済処理を手掛ける米Braintreeは、Stripeの本業と重なる領域で、インフラの規模拡大を目的としていると考えられる。

 第二に、傘下の送金アプリ「Venmo」などが持つ消費者接点の獲得がある。米国で9000万人が使うP2P(※)送金アプリVenmoや、4億超を誇るPayPalアカウントは、ウォレット系のサービスに強くないStripeの弱点を補強する。

P2P:Peer to Peer、個人間送金

 つまりStripeの弱みは消費者接点を欠いている点。PayPalの弱みは消費者接点(看板)を持ちながら成長が弱っていた点にある。

 今回の買収提案が実現すれば、両者は互いの弱点をちょうど補い合えるだろう。決済の表と裏を束ねる統合が、今回の買収提案の戦略であると予想される。

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(写真はイメージ、ゲッティイメージズ)

 PayPalは本件にまだ返答しておらず、取締役会が受け入れる保証はない。

 また、決済という社会インフラの巨大統合には、各国の競争当局の審査が避けられない。非上場のStripeと投資ファンドが折半で上場企業を買うという異例のスキームや、500億ドル規模の買収資金の調達に伴う金利負担、統合の難しさなど課題は山積みで、この提案がそのまま実を結ぶかは、いまだ不透明だ。

 それでも、この提案が出された事実自体に意味がある。

 元祖決済インフラが、後発企業に買収を持ちかけられる。PayPalがこの提案をはねのけて自力成長に向かうにせよ、受け入れてStripeの傘下に入るにせよ、決済ビジネスの重心がどこに移ったのかは明確である。

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