2015年7月27日以前の記事
検索
ニュース

「IT化か、水道を止めるか」 “ブラック部署”と呼ばれた曽於市水道課が挑んだ、金なし・人なしの現場DX(1/3 ページ)

技術職員はわずか3人。人手不足が深刻化する中、鹿児島県曽於市の水道課は、現場主導のDXで時間外対応を約75%削減した。予算も人材も限られた自治体が実現した改革とは。

Share
Tweet
LINE
Hatena
-

 「『システムを導入するか水を止めるか、どちらかを選んでください』と交渉するほど、極限の状態だった」

 このままでは現場は回らない、しかし水を止めることはできない――鹿児島県曽於(そお)市上下水道課の大峯直樹氏は、危機感を募らせていた。

 鹿児島県の大隅半島北部に位置する同市は、人口約3万人。この5年間で約10%減少し、高齢化率は約45%に上る。

 上下水道課の技術職員もここ20年で約60%減少し、現場を回せる技術者はわずか3人しかいない。うち2人は配属1〜2年目の若手であり、熟練技術者は技術管理者の大峯氏だけだった。

 技術者不足により進む属人化、休日・夜間を問わない現場対応――業務過多に苦しむ中、大峯氏はIT活用に立ち上がる。

 市には予算も人員もなかった。しかし、徹底した現場視点を武器に、技術者でなくても誰もが現場を回せる仕組み作りを実現。実際に、技術者の時間外対応を75%削減した。

 かつて“庁内一のブラック部署”と恐れられた上下水道課はいま、異動希望者が出るほどに変わった。泥臭く積み重ねてきた変革の全貌とは。

photo01
曽於市 水道技術管理者 大峯直樹氏(編集部撮影)

本記事は、日本DX大賞実行委員会が主催したイベント「日本DX大賞2026 サミット&アワード」(7月22〜23日開催)のラウンドテーブル「DX人材は研修だけでは育たない〜真岡市・曽於市に学ぶ、現場で育つ人材育成の仕組み〜」を取材したもの。


金なし・人なしの現場DX どう進めた?

 変革の第一歩は、バラバラだった水道の監視・制御システムの一元化だった。曽於市は2005年に3つの町が合併して成立した自治体だ。各町がそれぞれ導入した別々のメーカーのシステムが混在し、稼働状況を確認するだけでも、権限を持つ技術職員が現地まで足を運ばなければならない状況が続いていた。閲覧できるのはPCのみで、アクセスできるデバイスも限られていたという。

 「これらを全てクラウドで一元化し、スマホやタブレットで確認できるようにする」――大峯氏はこの構想を掲げ、電気設備工事事業者の明興テクノス(鹿児島市)とクラウドシステムの共同開発に乗り出した。

 共同開発という形をとったものの、システムを導入する初期費用は必要だった。「システムを入れるか、水を止めるか選んでください」――現場の切実な状況を上層部に伝え、予算を獲得したという。

photo03
「初心者目線」を徹底し、誰でも分かるシステム構築を目指した(出所:曽於市の講演資料、撮影:編集部)

 開発したクラウドシステムのコンセプトは「いつでも、どこでも、誰でも使える」というシンプルなものだった。従来のインフラシステムは「いかに高度な機能が付いているか」が重要視されがちだが、大峯氏は「正直、すごい機能はいらない。初心者でも使えることで、対応できる人の数を増やすことを目指しました」と話す。

 クラウドシステムは、現場で必要となる情報を一元管理し「探す」「調べる」「判断する」といった現場の手間を減らすための機能を実装している。

 例えば、住宅ごとの水道メーターの位置共有だ。特に戸建ての家などは、各戸で設置場所が異なる。「30分〜1時間ほどかけてメーターの場所を探していたら、植木鉢の下に隠れていた」といったケースも少なくないという。探す手間を排除するため、システムにメーターの位置や写真を登録し、初めてその家を訪れた人にも共有できるようにした。

 また、上下水道施設は山奥や森の中にあることが多く、標識もない。施設にたどり着くまでに迷うことも多々ある。そこで、システムには詳細なマップ機能を実装した。

 実際の作業手順についても、取扱説明書やトラブル対応手順を動画や写真付きでデジタル台帳化。システムは直感的に扱えるデザインを追求し、スマホネイティブな世代の職員が使いやすいよう整えている。

photo02
システムは「いつでも、どこでも、誰でも使える」を目指して構築した(出所:曽於市の講演資料、撮影:編集部)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る