「りんごの木」1本1本にタグ設置 一時は「赤字2000万円」の老舗農家がDXでつかんだ"逆転の一手":甘いりんごの“苦い現実”(2/2 ページ)
ツールを入れてデータを集めただけではDXは終わらない。青森の老舗りんご園、もりやま園では可視化したデータから経営課題を見抜き、新規事業の創出と栽培構造の改革へと踏み出した。DXを事業変革につなげた実践に迫る。
「捨てていたりんご」が、売り上げの半分を支える主力商品に
厳しい経営課題が明確になった一方で、それまで見過ごしていた価値にも気付いた。
「収穫量を増やす」のではなく「収穫前の時間そのものを価値に変えられないか」と考え、データが示した課題から逆算して、新たな収益源を探した。
それが「摘果(てきか)りんご」の活用だ。摘果りんごとは、おいしいりんごを作るために、成長途中の余分な実を切り落とす作業(摘果)で採られた未熟な小さな実を指す。
森山氏は、摘果という収入を直接は生まない時間を「収穫時間」(=収益を生む時間)に変えるアイデアを考えた。フランスのシードル(りんごを原料とした醸造酒)産地を視察した際、シードル専用のりんごは生食用と違い、強烈な渋みを持つことを知り、摘果りんごの持つ強い渋みが、シードル原料に適していると考えた。
データを用いて、摘果りんごを安全に使用可能にするための栽培管理手法を実用化。摘果りんごを活用したシードル「テキカカシードル」を商品化した。2019年にはシードルマスター協会で最高賞を受賞し、成城石井や明治屋、星野リゾートなどへも展開している。
現在、このテキカカシードルを中心とした飲料部門は、同社の売り上げの約半分を支える主力事業に成長している。
売り上げ3倍、それでもまだ赤字 100年続く栽培方法を変える挑戦
新規事業によって新たな収益源を生み出した一方で、データからは別の課題も浮き彫りになった。既存の栽培構造のままでは、黒字化には限界があるということだ。
データ活用の実績などが評価され、同社は農林水産省が進めるスマート農業実証事業の採択を受け、国の補助を得て光センサ自動選果機(糖度・酸度などの果実の内部の状態を、光を当てて調べて選別する機械)を導入した。
データ活用や光センサ自動選果機の導入などにより売り上げは3倍になり、年間2000万円に及んでいた赤字は100万円にまで減少した。しかし、赤字はゼロにはなっていない。森山氏は「黒字転換するためには、100年以上続いてきた栽培構造自体を見直す必要がある」と話す。
現在もりやま園では、機械化や将来の自動収穫を見据えた「高密植栽培」へのシフトに取り組んでいる。従来の栽培方法よりも、木と木の間隔を狭めて面積当たりの木の本数を増やすことで、同じ面積で3〜4倍の収穫量が見込めるという。
さらに、志を同じくする農家を集めた「コンソーシアム」を設立。海外製機械の導入に伴う莫大なコストへの対応や、新しい栽培方法の実証試験を、地域ぐるみで進めている。
情報の可視化はゴールではない。データが経営課題を明らかにし、新規事業を生み、さらには栽培方法や地域の農業構造まで見直す原動力となった。もりやま園の挑戦は「見える化」で終わらないDXの姿を示している。
ダイハツ、旭化成、NOT A HOTELなど登壇:
無料セミナー「ITmedia デジタル戦略EXPO 2026 夏」開催!
ITmedia デジタル戦略EXPO 2026 夏では、各分野の第一人者や企業の現場でビジネス変革に取り組むリーダーの声を通じて、経営×IT×現場のコラボレーションで全社変革を進めるヒントをお届けします。
AIを活用したデジタル戦略が必須となる中、ダイハツ工業や旭化成、NOT A HOTELなどビジネス変革に取り組む企業の「当事者の声」を通じて、現場のリアルな課題解決方法を探ります。視聴登録はこちらから。
- 開催日:7月8日(水)〜8月5日(水)
- 形式:オンラインセミナー
- 参加費:無料
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「IT化か、水道を止めるか」 “ブラック部署”と呼ばれた曽於市水道課が挑んだ、金なし・人なしの現場DX
技術職員はわずか3人。人手不足が深刻化する中、鹿児島県曽於市の水道課は、現場主導のDXで時間外対応を約75%削減した。予算も人材も限られた自治体が実現した改革とは。
老舗ホテル「川六」、DXで「3.4万時間」削減 年商30億円超の経理を「週3日・パート1人」で回す自動化の仕組み
年間休日72日、有給取得率30%台――人手に頼る「根性経営」から脱却するため、ホテルチェーンを展開する川六は12年間にわたりDXを進めてきた。売上30億円規模の経理を「週3日・パート1人」で支え、470件を超えるAI活用を生み出した、取り組みの全貌に迫る。
「楽になった分は、サボっていいよ」 老舗建設社長が社員にアプリ3000個自作させたワケ
「現場が動かない」「プロジェクトが続かない」――。こうした理由で頓挫するDXは少なくない。後藤組はIT人材ゼロから4年で3000を超えるアプリを生み出し、全社的な改革を実現。取り組みは一過性で終わらず、成果へと結びついている。なぜ「全員DX」は機能したのか。その背景を探る。


