障害者雇用が現場業務を「年6500時間」減らした ニッスイの“思考の転換”がすごい(3/3 ページ)
ニッスイは障害者雇用を通じて、現場の業務時間を、年間で約6500時間削減するという成果を上げました。同社の障害者雇用をリードする、ニッスイ 人事部 人事課の柳田貴子氏、白木亮平氏、武内洵平氏に話を聞きました。
障害者雇用を通じて年間約6500時間の業務削減を実現
井上: 実際に業務を受ける際は、どのように進めているのでしょうか。
白木氏: まずは各部署へ「手が回っていない業務はありませんか」「困っていることはありませんか」とヒアリングするところから始めます。新しい業務は、まず私が実際に担当し、手順や進め方を整理した上でマニュアル化します。また「納期は何日の何時まで」と具体的に決めるなど、誰が担当しても同じ品質で進められるよう標準化しています。
井上: 障害のある社員とのコミュニケーションでは、どのような工夫をされていますか。
柳田氏: 独自の「合理的配慮シート」を活用しています。口頭の約束ですれ違いが起きないよう可視化し、双方が共通認識を持てるようにするためです。
「こういう障害だから、こう配慮してください」という一方的なものにするのではなく、仕事を進める上で、お互いにどのような工夫や調整をすれば力を発揮しやすいのかを話し合う手段として活用しています。内容は定期的な面談を通じて見直しています。
井上: これまでの取り組みを通じて、どのような変化や成果がありましたか。
柳田氏: 昨年度は、ビジネストラストチームが業務を担うことで、現場部門では約6500時間の業務削減につながりました。現場からも「休みを取りやすくなった」「残業が減った」といった声が寄せられています。
数字として成果が見えたことはもちろんですが、それ以上に「一緒に仕事をするのが当たり前」という意識が社内に広がってきたことを実感しています。
白木氏: ビジネストラストチームはゴールではありません。最終的には障害のある社員が他部署へ異動し、それぞれがキャリアを広げていくための「通過点」としています。これまで4人が他部署へ異動し、正社員登用につながった社員もいます。
武内氏: 今後は、他部署で活躍できる人材をさらに育成し、送り出していくために、研修プログラムの整備にも力を入れていきたいです。
柳田氏: 仕事を軸に、障害のある社員と共に働く環境をつくれば、自然とインクルージョンは進んでいくと考えています。障害者雇用という枠にとどまらず、会社の業績や業務に貢献できる存在として、一人一人が活躍できる環境をこれからも広げていきたいです。
編集後記
今回の取材を通じて見えてきたのは、仕事を依頼する現場部門に対して「業務の解像度」を能動的に引き上げていくアプローチの重要性です。
障害者雇用に取り組む現場では「自部署のどの業務を任せればいいのか、具体的なイメージが湧かない」といった声が聞かれます。同社でも試行錯誤を繰り返しながら、立ち上げ当初の業務集約をきっかけに、複雑な案件も含めて現場と協働し、実績を作りました。その過程で「Excel集計も任せられる」といった実例を示し、現場部門が持つ「依頼できる業務」の解像度を少しずつ高めていきました。
さらに、これを一時的な取り組みで終わらせず、組織としての継続的な仕組みに落とし込んでいる点も特徴的です。プロフィールブックの作成や社内報での発信は、障害のある社員紹介にとどまらず、依頼部署に対して「このスキルを持った人材なら、自部署のあの業務を任せられる」という、解像度を高めるための仕掛けとして機能しています。現場部門への発信を通じて受託する業務の幅を広げ続けることが、結果として障害のある社員のさらなるステップアップへとつながる構造になっています。
また、最初から完璧なマニュアルがある業務だけを現場から受託するわけではない点も重要です。現場のニーズと障害のある社員のスキルをマッチングさせる際、人事部が仲介してプロセスを標準化することで、より高度な業務にもスムーズに挑戦できる環境を整えています。他部署配属といった明確なキャリアパスを示すことも、障害のある社員一人一人が主体的に挑戦する原動力につながっています。
ニッスイが取り組む現場部門への「業務の解像度向上」と、障害のある社員の「挑戦を支える仕組み」の掛け合わせが、多様な人材が活躍できる組織づくりにおける大きなヒントになるのではないでしょうか。
ダイハツ、旭化成、NOT A HOTELなど登壇:
無料セミナー「ITmedia デジタル戦略EXPO 2026 夏」開催!
ITmedia デジタル戦略EXPO 2026 夏では、各分野の第一人者や企業の現場でビジネス変革に取り組むリーダーの声を通じて、経営×IT×現場のコラボレーションで全社変革を進めるヒントをお届けします。
AIを活用したデジタル戦略が必須となる中、ダイハツ工業や旭化成、NOT A HOTELなどビジネス変革に取り組む企業の「当事者の声」を通じて、現場のリアルな課題解決方法を探ります。視聴登録はこちらから。
- 開催日:7月8日(水)〜8月5日(水)
- 形式:オンラインセミナー
- 参加費:無料
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
慕われる“雑談おじさん”を切り捨てた企業の末路 ギスギス職場を救う「見えない貢献」の正体
かつて日本の職場には、仕事をしているのかいないのか分からないけれど、なぜか周囲に慕われる「潤滑油」のような先輩や上司がいました。今、こうした人々の「目に見えない貢献」が、再び脚光を浴びています。
ロート製薬「エントリーシート選考廃止」は、30年続く“とりあえず就活”を変えるか
「エントリーシートによる書類選考廃止」を発表したロート製薬。同社の取り組みは、1990年代から30年以上続いた“とりあえず就活”を変えるでしょうか。
「AIリストラ」に逆行 “人間不要論”が広がる一方で、あえて採用増やす企業の狙い
ここ数年で「AIリストラ」というワードが話題になるなど、生成AIにより採用抑制に踏み切る動きが相次ぎました。生成AIの普及によって変化した採用動向を整理しつつ、「AIを契機に採用を加速させる企業の特徴」「AI時代にIT人材へ求められるスキルの変化」を解説します。
ブルーカラーとて“安泰”ではない AI時代に最もリスクヘッジが利く「2軸スキル」とは?
DXでは、省人化・自動化を図る目的でAIによる業務代替が進行し、特にホワイトカラー領域で顕著です。ホワイトカラーへの雇用リスクが増大する中、人間だからこそできる、体を使った「ブルーカラーワーク」が再評価されています。

