「AI、結局使えないじゃん」問題 セールスフォースが431万件対応で導いた正解(2/2 ページ)
AIエージェントの導入が進む一方、全社的な利益改善に至る企業は4割弱にとどまる。そんな「AI導入の壁」を破り、自社実践(カスタマーゼロ)で431万件の顧客対応を完了、商談数を4〜5割増加させたのがセールスフォースだ。同社はなぜ明快なROIを生み出せるのか。データやKPIが整う領域の選定や「シンプルで高頻度な業務」から任せる鉄則など、AI投資を成果につなげる運用の方法論を田中遼太COOに聞いた。
パスワード再設定から任せよ 「シンプル×高頻度」業務から商談4割増
――サポート領域と営業領域という2つの取り組みは、成功しやすい条件が共通しているからこそ優先順位を付けやすかったということでしょうか。
優先順位という考え方も一つありますが、それ以上に、どの業務をエージェントに任せるかという視点が重要だと思っています。ユーザーからの問い合わせにはさまざまなパターンがありますが、シンプルで発生頻度の高いものであれば、サポート領域でも営業領域でも同様に、まずエージェントに任せた方がよいと考えています。
例えば「パスワードの再設定」は、特に多い問い合わせです。こうした対応にまだ人が介在している部分があるなら、エージェントだけで完結させた方がよいでしょう。一方で、製品の使い方に関する非常に複雑な問題であれば、入り口は同じエージェントであっても、最初から最後までエージェントだけで対応するのではなく、途中から人に引き継ぐワークフローにした方がよいということになります。
つまり、最初から複雑な問題をどうエージェントに対応させるかを考えるのではなく、まずはシンプルで頻度の高い業務から着手して効果を最大化し、そこから少しずつ対応範囲を広げてチューニングしていく方が、結果的にエージェントが活躍できる領域を着実に広げることにつながると考えています。
――AIエージェントの導入によって、特に投資対効果が高かったと感じている部分はどこでしょうか。
サポート領域では、業務の6割から7割程度をエージェントが人に代わって対応できています。件数が増えても同じ割合で自動的に対応できる点が大きいです。営業領域では、商談数が4〜5割程度増えました。いずれも、データが整備され、業務フローが定型化され、KPIで効果を測れる領域だったからこそ、成果がはっきり見えたのだと考えています。
一方で、全体としてどれくらいの効果があったのかを売り上げベースで捉えられないかという議論も進めていますが、正直なところ、まだ明確な数値として示せる段階には至っていません。エージェントが直接対応している部分以外にも、人が担当している業務の生産性が上がったり、マネジャーの取り組み方が変わることで組織自体が変わっていったりといった副次的な効果があるためです。
こうした履歴が積み重なって、経済効果として表れてくるものだと考えています。測定方法については、カスタマーゼロのグローバルチームの中に効果測定を専門に議論するチームがあり、そこで検討を進めています。
ダイハツ、旭化成、NOT A HOTELなど登壇:
無料セミナー「ITmedia デジタル戦略EXPO 2026 夏」開催!
ITmedia デジタル戦略EXPO 2026 夏では、各分野の第一人者や企業の現場でビジネス変革に取り組むリーダーの声を通じて、経営×IT×現場のコラボレーションで全社変革を進めるヒントをお届けします。
AIを活用したデジタル戦略が必須となる中、ダイハツ工業や旭化成、NOT A HOTELなどビジネス変革に取り組む企業の「当事者の声」を通じて、現場のリアルな課題解決方法を探ります。視聴登録はこちらから。
- 開催日:7月8日(水)〜8月5日(水)
- 形式:オンラインセミナー
- 参加費:無料
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
AIが破壊するIT業界の“人月商売” 「SIerの死」後に“生き残る者”の正体
米Anthropicの機能発表で約8300億ドルの時価総額が消し飛んだ「AIショック」。画面の使いやすさで稼いできたSaaSや、時間と人数を積み上げるSIerの「人月商売」が崩壊の危機に直面している。だが、業界ルールにのっとった複雑な計算(ビジネスロジック)を握る企業は依然として強い。真の構造変化はどこで起きているのか。AIに仕事を任せるための「安全管理」の難所と、「現場派遣型エンジニア」(FDE)の正体に迫る。
NEC森田社長が語る「脱・人月商売」の行方 組織の壁を破るAI人材育成法
NECはAI時代に、いかにして稼いでいくのか。「BluStellar」(ブルーステラ)の収益構造、防衛・安全保障や海底ケーブルといった注力領域の戦略について、森田隆之社長がグループインタビューで語った。
なぜIT多重下請けは起こるのか? 日米“外注構造”とDXの違いから考える
日米のIT業界の違いは何か。DXなど技術部門への考え方の違いについて、SHIFTの技術顧問を務める川口耕介氏とクレディセゾンの小野和俊CTOに聞いた。
製造現場の「AIアレルギー」をどう払拭? 日立・新卒デジタル人材「3カ月奮闘記」
日立製作所は、AIやデータ解析の専門スキルを持つ新人データサイエンティストを、製造現場へと送り込んでいる。いかにして現場の「AIアレルギー」を払拭し、現場とのコミュニケーションを通じて業務時間を短縮する生成AIツールを定着させたのか。実習に参加した若手女性データサイエンティストの禹周賢(ウ・ジュヒョン)さん(デジタルアナリティクス推進部)と、受け入れ先の現場担当者にインタビューした。
「会議はまず笑わせろ」――28万人企業・日立副社長が明かす「逃げない」リーダー論
かつての失敗で落ち込んだ時、「命までは取られない」という先輩の言葉に救われた日立製作所の阿部淳副社。知られざる過去の経験から、副社長として背負うプレッシャーの正体まで。技術の日立を支える人間・阿部淳のリーダー論に迫る。
日立・阿部副社長に聞く“最高益”更新の舞台裏 巨額赤字から組織を復活させた変革とは?
グローバル市場が投資に慎重になる逆風下で、なぜ日立は過去最高益を達成できたのか。米NVIDIAや米OpenAIといった世界的リーダーとも即断即決で提携を結ぶスピード感は、巨大企業・日立のどこから生まれているのか。阿部淳副社長に、激動の2025年を振り返ってもらいつつ、組織変革の手応えを聞いた。
日立が狙うフィジカルAI「20兆円市場」 Google Cloudとの連携で描く勝ち筋
日立製作所が、「フィジカルAI」を成長戦略の柱に据えようとしている。AI研究の蓄積を武器に「世界トップのフィジカルAIの使い手を目指す」方針だ。日立の戦略を追った。
YouTuber、コンサル、ビール醸造 日立の社員はどんな副業をしているのか?
日立の社員は、どのような副業をしているのだろうか? 副業推進と合わせて、利益相反や情報漏洩(ろうえい)を防ぐためのルールも整えた日立。副業制度の利用実態と、それを支えるルール整備について、人事担当者にインタビューした。
日立が踏み出した「副業解禁」 “試行1年”で磨き上げた制度設計の「4つの承認基準」とは?
2024年10月に、社外副業制度を本格導入した日立製作所。そこに至るまでには周到な準備があった。全従業員を対象としながら、いかにして「本業への支障」や「情報漏えい」といった大企業特有のリスクを管理しているのか。本格導入までのプロセスと、日立独自の4つの承認基準について聞いた。

