「よく聞こえなかったデスら」――『ドラクエ』に“AIキャラ”登場、世界観を守るために張り巡らせた創意工夫(2/2 ページ)
『ドラゴンクエストX オンライン』に生成AIを活用した新キャラ「スラミィ」が実装された。生成AIのゆらぎを克服し、ゲームの世界観をどのように守っているのか。
「現実の地名は出力NG」 AIに指示→ゲーム用語も言わなくなる事態に
世界観の担保は、キャラクター付けだけでは終わらない。ドラゴンクエストXには、ゲーム内テキストの表記ルールが細かく定められている。「読点は空白で表す」「1行当たりの文字数を守る」「現実世界の情報は話さない」などだ。ユーザーからの質問であっても「渋谷駅から徒歩5分に○○ホテルがあります」といった回答を、そのまま画面に出すわけにはいかない。
そこで、音声対話用のGemini Live APIとは別に、テキスト解析向けの「Gemini API」を使い、生成された回答に感情判定と空白の挿入、改行処理を施す。感情はスラミィの表情に反映され、文章を分割して「近くに宿屋が あるデスら」のようにチャット欄へ表示される。
不適切な発言の防止は4層で構える。
- Safety Instructions:システム指示レベルでスラミィとしての振る舞いを縛る
- NG Word Check:スクウェア・エニックス独自のアルゴリズムでNGワードを判定する
- Safety Filter:Gemini APIの応答内容をフィルタリングする
- Model Armor:Googleが提供する技術で、不正なプロンプトなどを検知する
締め付けが強すぎれば、ユーザー体験を損なってしまう。4層目のModel Armorについて佐久間氏は「現実の住所を出さないように厳しすぎる設定にしたところ、ゲーム内の地名『アストルティア』まで言わなくなってしまった」と明かす。そのため一部設定を緩めた。
エラーが出たら「よく聞こえなかったデスら」で回避
話はここから、多人数が同時に遊ぶオンラインゲームとして成立させるためのサーバ側の工夫へと移る。
スクウェア・エニックスの深澤優鷹氏(AI&エンジン開発ディビジョン AIプログラマー)は「AIは必ず『ゆらぐ』。同じ入力をしても、常に同じ応答を返すとは限らない」という前提の下で、開発に取り組んだ。
実際、開発時には「応答が空っぽで出てくる」「AIの思考内容が表示される『思考リーク』が起きる」「音声が延々と生成される『音声の無限生成』」といった事象に悩まされた。プロンプトを調整しても根絶はできない。そこで再送処理を徹底的に組み込み、大部分を裏で拾い上げた。間隔は段階的に広げ、応答回数の上限も厳格に設けている。
それでも応答に失敗したら「ごめんデスら。よく聞こえなかったデスら」と、スラミィがとぼける定型文へ差し替えることで、エラー表示を見せずに世界観を守る。「無機質なシステムエラーや英文のエラーコードを返してしまっては、相棒としてのゲーム体験が台無しになる」(深澤氏)
多人数がAIを使うことによるシステムへの負荷対策には、サーバの処理能力を事前に予約する定額課金型の「Provisioned Throughput」を採用した。従量課金と違い、予約分の範囲内なら応答は安定し、コストも読みやすい。ただし「買い過ぎればコストが膨らみ、足りなければ品質が落ちる」(深澤氏)。購入量を最適化するため、クローズドベータテストのユーザーがプレイする時間をずらしてピークを平準化するなど、ゲーム運営側と開発側が協力して必要量を削減した。
このほか、入出力データや生成AIの処理量(トークン数)を追える構造化ログを設計し直し、不具合の原因特定とコスト予測を可能にした。これとは別の仕組みとして、通信ごとに発行される使い捨ての認証コード(ワンタイムトークン)で不正な呼び出しも遮断する。
「サーバの真の役割とは、単にAIを動かす場所でも、仲介役でもなく、AIが起こすゆらぎを受け止め、ユーザーの体験価値を最大化するための土台だ」――深澤氏は講演をこう締めくくった。AIの賢さに頼ったり、厳しい指示を出したりしてトラブルを回避することも重要だ。しかし、スクウェア・エニックスの事例からは、AIのゆらぎを織り込んだ運用設計こそが、ブランドを守る境界線になるということが分かる。
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