「よく聞こえなかったデスら」――『ドラクエ』に“AIキャラ”登場、世界観を守るために張り巡らせた創意工夫(1/2 ページ)
『ドラゴンクエストX オンライン』に生成AIを活用した新キャラ「スラミィ」が実装された。生成AIのゆらぎを克服し、ゲームの世界観をどのように守っているのか。
いまから40年前の1986年、後に大ヒットとなるゲームシリーズが生まれた。スライムなどの親しみやすいモンスター、高らかなファンファーレから始まるBGM、冒険心をかき立てる世界――そう、“ドラクエ”の名で愛される『ドラゴンクエスト』だ。
2026年にはシリーズ本編12作目『ドラゴンクエストXII 夢の彼方へ』を発表し、関連タイトルを含む累計販売本数は9700万本を超えた(2026年2月時点)。
多くの人が夢中になったドラクエが、大きく進化していることをご存じだろうか。オンライン版ゲーム『ドラゴンクエストX オンライン』は、生成AIを活用した対話型AIパートナー「おしゃべりスラミィ」を実装している。2026年4〜5月にはクローズドベータテストを行った。
生成AIには、米Googleの「Gemini」を採用。質問に答えるだけのチャットAIではなく、物語をプレイヤーと共に歩む「相棒」を目指した。しかし、生成AIは常に同じ答えを返すとは限らず、ゲームの世界観やブランドを傷つけるリスクと隣り合せだ。
自社プロダクトを磨くためAIを導入する企業が増えている中、この不確実性をどのように抑え込むかが実用化の鍵を握る。伝統あるゲームの世界観を壊さずに、AIをどう住まわせるか。開発元であるスクウェア・エニックスのプログラマーが、設計の全貌を明かした。
本記事は、グーグル・クラウド・ジャパンが主催したイベント「Google Cloud Next Tokyo」(7月30〜31日開催)の講演セッションから「『ドラゴンクエストX オンライン』の世界観を守り抜くGemini実装の全貌」を取材したもの。
語尾「デスら」のAIキャラ登場 Gemini採用、世界観守る工夫とは
「ワガハイはスラミィ。死神見習いデスら。あなたのことは『死神手帳』で知っていたデスら」――スラミィは、こう話しかけてくる。
スラミィは、プレイヤーの問いかけに音声とテキストで答える。「ゲーム初心者に次のクエストを提案する」「前日の会話を覚えておく」「写真撮影時やログイン時などに自ら話しかけてくる」といった動作をする。
こうした要件を掲げた理由を、スクウェア・エニックスの佐久間隆友氏(プログラマー)はこう語る。
「AIとプレイヤーが、まるでゲームの世界に入り込んだかのような自然な対話を実現するためには、単に正しい日本語を返すだけでは不十分だ。AIキャラクター自身に一貫した個性があり、さらにプレイヤーの個性を理解したうえで言葉を交わす必要がある」
この考えを実現する上で中核になるのが、AIシステムに対して事前に指示を書き込んでおく「システムプロンプト」にキャラクター性を付ける工程だ。開発側は、役割や世界観、好きな呪文、語尾といった設定を書き込む。
プレイヤーには、ゲーム内の対話で「MBTI」を参考にした性格診断を受けてもらい、その結果をスラミィの回答に反映する。性格別に人称や口癖を定義することで、プレイヤーごとに異なる「自分だけのスラミィ」が立ち上がる。
音声にも工夫がある。当初は音声合成技術(TTS:Text-to-Speech)も検討したが、人間の発話としては十分でも「キャラクターとしては物足りなかった」(佐久間氏)。そこで、声とテキストを同時に生成できるGoogleの「Gemini Live API」を採用。「デスら」という一般的でない語尾も、プロンプトを駆使してイントネーションを調整した。
会話を重ねると関係も変わる。スラミィではない別のAIが会話内容を評価し、経験値として加算する。経験値が一定量たまると親密度が上がって「他人行儀」から「相棒」まで4段階でシステムプロンプトが切り替わる。スラミィの言葉選びが柔らかくなり、やがてユーザーを名前で呼んでくれるようになる。
「AIが自分で話しかけてくるシステム」どう構築したのか
佐久間氏が「相棒」の条件として特に重視したのが、AIから話しかける機能だ。「相棒として振る舞うためには、AI自身からプレイヤーに向けた自発的な発言も重要となる」と説明する。
仕組みは単純だ。プレイヤーが装備を変えたりボスを倒したりすると、ユーザーに気付かれないようにゲームの裏側でAIに指示を送る。バトルなら「プレイヤーが初めてこのボスを倒したので褒めてください」といったプロンプトが送られ、スラミィが自ら語りかけているように見える仕組みだ。
記憶は短期と長期に分けて管理する。会話内容はそのまま短期記憶として保存し、直近の必要な件数だけをAIへのリクエストに添える。全てを保持し続けられないため、重要な部分だけを長期記憶へ変換する。この処理は「Google Cloud」のエージェント実行基盤が備える記憶管理機能「Memory Bank」が担う。
複数のAIを束ねるマルチエージェント構成には、Googleが公開したオープンソースの開発キット「Agent Development Kit」(ADK)を使った。組み合わせるだけで骨格が組めるため作業を効率化でき、浮いた工数はセキュリティ強化に回せた。
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