酷暑による経済損失「年7.8兆円」 “暑さ”を商機に変えた「空調服」「ダイキン」の戦略に迫る:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
40度以上の酷暑日が当たり前にある日本。暑さは経済に深刻なダメージを及ぼしている。一方で、暑さを味方に付けてビジネスを拡大しているのが「株式会社空調服」と「ダイキン」だ。両社の戦略に迫る。
ダイキン「50度でも使えるエアコン」、インド展開でシェア1位に
日本の高温多湿な環境で製品や技術を磨き、世界に打って出る企業も登場している。特にグローバルで存在感を増しているのが、空調大手のダイキンだ。
同社が2026年5月に公表した戦略経営計画「FUSION30」では、インドにおける空調市場シェアNo.1と収益力強化の両立を目標として掲げている。インドの空調普及率は8%(2024年度)にとどまり、市場は年率10%で伸びるという想定の下で、インド・中東・アフリカ地域に800億円の設備投資を計画する。
ダイキンによると、同社はインドの空調市場において住宅用・商業用・業務用の全てでシェア1位を獲得している。同社は、電力供給が不安定な地域でも空調設備を稼働させられるよう、エアコンの室内機に変圧器を備え付けて停電に伴う故障を防いでいる。また、気温が50度近いインドの環境でも冷却できるよう試験を重ねたり、悪路輸送を想定した梱包(こんぽう)を採用したりしているなど、ローカライズ戦略が奏功している。
さらに、同社はエアコン製品だけでなく「空調インフラ」も売る企業に変貌している。この点について説明するには、まずシンガポール都市部の冷房事情について語る必要がある。
シンガポールでは「ビルごとに冷房設備を持たない」 なぜ?
シンガポールのマリーナベイ地区では、主要なビル群が個別に冷房設備(冷凍機)を持たない。なぜなら、都市の地下から空調を各建物に集中供給する「地域冷房」を採用しているためだ。
地域冷房を運営する同国のSingapore Power(SP Group)は、地域冷房設備が完成した2016年時点で「世界最大の地下地域冷房ネットワーク」をうたっており、利用企業は冷房効率を約40%高められるという。
ビルごとに冷房設備を置けば、各社が最も暑い日に合わせて設備を抱えるため、平時は過剰設備になりかねない。屋上は室外機で埋まり、その排熱が街の気温をさらに押し上げる。ならば冷やす機能を一カ所に集約し、必要な分だけ配ればいい。電力を各家庭で発電しないのと同じ理屈である。
そして、2025年10月に稼働したシンガポール最大の産業用地域冷房については、SP Groupが70%、ダイキンのシンガポール法人が30%を出資する合弁会社が設計・建設・運営まで一気通貫で対応している。
日本企業が、海外の冷房インフラを運営する側に回っているのだ。
大阪や新宿で人知れず稼働する「地域冷暖房システム」とは
では日本は遅れているのかといわれると、実はそうではない。
日本の地域冷暖房システムは、すでに半世紀もの長い歴史を持っている。1970年に大阪府豊中市の千里中央で日本初の本格的な地域熱供給が始まったのを皮切りに、1971年4月には新宿新都心、1973年12月には丸の内二丁目が供給を開始した。
規模も大きい。新宿地域冷暖房センターの冷却能力は6万1000冷凍トンに達している。マリーナベイの2027年時点の計画容量が最大9万冷凍トンであることを踏まえると、新宿もひけをとらない。
新規案件も出ている。東京ガスと野村不動産の共同出資会社は2025年3月1日、芝浦一丁目で新たな地域熱供給を開始した。
大阪では、関西電力グループがグラングリーン大阪で地域冷房に取り組んでいる。国家戦略特区の規制緩和を活用し、全国初となる帯水層蓄熱と下水熱利用を組み合わせたエネルギー設備が2025年3月21日から本格稼働している。
国内外の動向を見て分かるのは「足りないのは冷やす技術ではない」ということだ。マリーナベイの地域冷房設備に関して、配管はSP Groupが敷いたものではなく、シンガポールの都市再開発庁が計画・建設した全長約4キロの共同溝の中に、電力・上水・通信と同居する形で収容されている。冷やし方を決め、需要が立つ前にインフラを敷く政策とセットで考えることが重要といえそうだ。
「気温」という指標を企業経営に取り込めるか
暑さの損失を定量化するレポートが国際的に公表される中で、自社の売り上げや労務コストが気温でどれくらい動くかを把握・開示している企業は、まだ多くない。
暑さは毎年やってくるものだ。設備投資の判断にも、需要予測にも、労務コストの見積もりにも、気温という変数を明示的に置くことが求められる。
「気温40度時代」が到来する日本で「気温」は経営判断における重要なデータとなりうるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「暑いと効率が落ちる」はやっぱり本当だった データが示す、エアコンと経済成長の関係性
記録的な熱波に襲われた欧州では、巨額の経済的損失が懸念される。「暑いと業務効率が落ちる」という体感は、本当なのか。有識者がデータを基に解説する。
「モバイルバッテリーの発火」8月が最多 事故どう防ぐ? 160万個・1億回レンタルしたCHARGESPOTに聞いてみた
モバイルバッテリーのレンタルサービス「CHARGESPOT」の貸し出し回数が1億回を突破した。サービス開始以来、発火などの重大事故を0件に抑えているという。その仕組みを取材した。
「東京で決めるとズレる」 ロッテ、ダイキン、KADOKAWAが語る、アジア市場攻略のリアル
巨大経済圏に成長したアジアは、日本企業にとって魅力的な市場だ。海外展開に成功したロッテ、ダイキン工業、KADOKAWAはどのように事業を拡大させたのか。
関連リンク
- 気象庁「最高気温が 40℃以上の日の名称を「酷暑日」に決定」
- 気象庁「2026年7月中旬〜下旬の顕著な高温と今後の見通しについて」
- The 2025 report of the Lancet Countdown
- The 2025 report of the Lancet Countdown(日本データ)
- Allianz「Too hot to grow: The economic costs of extreme heat」
- 帝国データバンク「猛暑・酷暑に関する企業の動向アンケート」
- 繊維ニュース「EFウエア/市場規模200億円突破か/24夏の猛暑でほぼ完売」
- 繊維ニュース「EFウエア/市場規模300億円の大台へ/来年に向けさらに拡大」
- 繊維ニュース「空調服 EF絶好調で今期70%増収」
- ダイキン工業「FUSION30」
- SP Group「WORLD’S LARGEST UNDERGROUND DISTRICT COOLING NETWORK AT MARINA BAY SAVES MORE THAN 40 PER CENT IN ENERGY FOR CUSTOMERS.」
- 東京ガス「新宿地域冷暖房センターの環境性能向上工事の完了について」


