「欧州のAI主権」任された“34歳の天才” パリの新星、AI企業Mistralは「救世主」になれるのか(2/3 ページ)
欧州のAI主権を担う存在として、AI企業のMistralが注目されている。同社を率いる34歳の“若き天才”は、“救世主”になり得るのか。
MistralのAIモデル、OpenAIの“1年半遅れ”か?
現在、世界で最も企業価値の高いAIスタートアップであるAnthropicは最近、企業価値が9650億ドルになったと評価された。Mistralの40倍以上だ。OpenAIの企業価値は8520億ドルで、Mistralの約37倍に相当する。
この資金力の差が、2025年末までにMistralが停滞期に入ったように見えた理由の一部を説明しているかもしれない。特に注目すべきは、2025年最大の差別化要因である「推論モデル」――問題を段階的に処理してから回答するタイプのAIを、Mistralがリリースしたのは6月になってからだったことだ。それだけ時間をかけたにもかかわらず、そのモデルは中国のDeepSeekが開発したモデルに後れを取っていた。
2025年12月、Mistralは「Mistral 3」シリーズのモデルを投入して反撃に出た。これには、フラグシップモデルの「Large 3」と、単一のGPUで実行できるほど効率的な小型モデル群「Ministral 3」シリーズが含まれる。この効率性が、より大規模で高コストな競合企業との差別化要因になるとMistralは期待している。
ただし、一部のベンチマークでは、Large 3の性能は、OpenAIのモデルが1年半前に達成していた水準にとどまっている。Mistralは、現実世界の企業業務の大半は最先端の性能までは必要なく、単純なベンチマークのスコアでは同社モデルの価値を十分に評価できないと主張する。しかし、最も難しいタスクにおいて、米国の最先端モデルとの性能差が依然として存在するのは事実だ。
「AIコストを抑える戦略」で顧客のハートをつかむ
最近のMistralは、企業顧客への売り込みを強化している。音声処理や、スキャンした文書・画像からのテキスト読み取りなど、実際の企業業務に優れた特化型モデルへの投資を進めている。CTO(最高技術責任者)のラクロワ氏は、これこそが企業内でのAIの活用実態をよりよく反映していると主張する。
カーゴショーツと黒いTシャツ姿のラクロワ氏は、欧州が記録的な熱波に見舞われる中、パリのトレンディーな地区であるサン・マルタン運河周辺にあるMistralのオフィスで取材に応じた。
ビデオゲームのキャラクターにちなんで名付けられた同社の会議室では、パリでは珍しいぜいたく品であるエアコンの涼しさを満喫しようという従業員たちでにぎわっている。
「誰もが最高のモデルを作ることを夢見ています。しかし、私たちは、中国企業で見られる『深さ優先のアプローチ』よりも『やや幅広さを優先するアプローチ』を取っているのです」
Mistralは、企業の業務を小型かつ業務特化型のシステム上で実行し、より高度な推論や幅広い能力が必要な場合には、大型で汎用(はんよう)的なモデルが処理を引き継ぐようなサービスを目指している。このアプローチならAIコストを削減でき、企業はAIへの支出が際限なく膨らむのを眺めるのではなく、支出額を予測して上限を設定しやすくなる。
過去1年間で、Mistralは大企業の顧客数を100社以上に増やした。まさに時宜を得た戦略だ。
「Claude」を利用する企業が5億ドルの請求額を積み上げた事例など、AIを巡る「恐怖の体験談」が相次ぎ、経営幹部は従業員に最先端AIへの無制限のアクセスを認めることに慎重になっている。
また、AnthropicのClaude Mythosを巡る一連の出来事は「モデル非依存型」のワークフローへの移行を加速させた。これは、システムの「頭脳」として異なるモデルを必要に応じて入れ替えられる仕組みだ。重要な業務を単一のモデルに依存して構築することは、そのモデルが突然オフラインにされる可能性がある状況では、よりリスクの高い選択に感じられる。
これを受けたアナリストは総じてMistralの将来性について楽観的だが、モデルの品質だけで米国や中国の先頭を走る研究所に追い付くのは難しいと指摘する。
「主要なAI研究所は、さまざまな工夫を積み重ねてきました。ハードウェアが同じままだとしても、アルゴリズムを調整するだけで、モデルを訓練する速度を2倍、3倍といった具合に高められます」――カリフォルニア大学バークレー校で計算機科学を教えるスチュアート・ラッセル教授はこう語る。Mistralのような研究所にも追い付くことは可能だが、真の最先端に立つ企業の優位性は、素早く動き、新しいアイデアを繰り返し試せる能力にあるという。そのためには、膨大な計算能力へのアクセスが必要だ。
防衛分野に参入 「教皇の助言で平和になることを願うが、現実は違う」
また、Mistralは、米Palantir Technologiesの戦略を踏襲しているようだ。AnthropicやOpenAIが追求してきた大規模な普及ではなく、主要顧客に対する深く手厚い導入支援によって勝利を目指す戦略である。
ロンドンを拠点とする採用動向調査会社Zeki Dataによると、Mistralが現在募集している168職種の3分の1が企業向け市場開拓関連である。これは、顧客企業のシステムに組み込まれた技術スタッフとの、より深い連携をMistralが重視していることを示唆するという。
Mistralの最高収益責任者であるマージョリー・ジャニエヴィッチ氏は、顧客のほとんどがすでに「非常に大規模で戦略的な」複数年契約を結んでいると述べる。効率的なモデルと長期的な変革プロジェクトを組み合わせたこうした契約により、短命なパイロットプロジェクトを追いかける研究機関よりも、同社は健全な単位経済性を実現していると主張する。
Mistralの売上高の伸びを見ると、この戦略は成果を上げている可能性がある。同社の2025年の年換算売上高は4億ドルを超え、2026年初頭の時点では、同年末までに売上高が10億ドルを超えるペースで推移している。こうした勢いがあるにもかかわらず、Mistralの売上高は、Anthropicの年換算売上高とされる推定470億ドルと比べれば、はるかに小さい。
同社は製造業にも進出している。5月には、産業工学向けの物理ベースAIを専門とするオーストリアのスタートアップであるEmmi AIを買収した。Emmi AIの評価額は、3億3000万ユーロ(約3億7700万ドル)と報じられている。この買収が、欧州のAirbusやドイツのBMWとの契約の基盤となっている。
社内では、創業者たちが産業工学への大きな賭けについて話し合っている。AIエージェントと物理法則を理解するモデルを利用して、工場の生産現場からタービン、航空機の翼に至るまで、物理システムを再設計・シミュレーションするという構想だ。
Mistralが事業領域を拡大する中には、防衛分野も含まれている。これは論争の多い領域である。ローマ教皇を含む批判者は、戦場での意思決定にAIを利用すれば、許容できないリスクが生じ、責任の所在が曖昧(あいまい)になると警告している。
この論争についてメンシュ氏は「本質的に、これはデュアルユース(軍民両用)技術である。情報を処理するための技術であり、戦争とは情報を処理して適切な意思決定を行うことにほかならないからだ」と語る。「世界が教皇の助言に従い、完全に平和になることを願っていますが、現実はそうではないようです」
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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