AIで変わる「現場」、稼ぐ人材に求められる能力は? 東大名誉教授が説く“仕事のライトブルー化”:変わる『現場リーダー』の条件――ネオ・ブルーカラーの衝撃(2/2 ページ)
AIの進化で、製造・建設などの「現場」の仕事も変わり始めている。AI時代に台頭する「ライトブルー人材」とは何か。また、それにより組織の在り方はどのように変化するのか。
これからの生産現場で活躍するのは誰か? 求められる能力
こうした変化を見て、筆者は「ビジネススキルやデジタル知識を持った元デスクワーカーが現場に入り込めば、優位に立つのではないか」という仮説を持った。しかし藤本氏は、この想定に対し「デスクワーカー出身であることの優位性も不利性もない」とする。「重要なのはどのような能力構築をするかであり、今後の日本の企業や産業の競争力強化や成長にとって何が必要かということだ」
現場で活躍するために重要なのは、問題発見と解決、仮説の立案と検証という「科学的な思考」が得意かどうかだと続ける。
例えば、長く生産の現場に従事してきた人材や、製品開発や技術開発を担ってきた人材などは、追加の教育を受ければ、生産革新や技術革新といったライトブルー的な業務に、効率的に参加しやすい傾向がある。一方で、その能力に達していない人は、OJTや社外研修などにより、多少時間をかけて現場で求められる能力を身につけていく必要がある。
このように、活躍までの時間に多少の違いはあるかもしれないが、高卒や大卒、中途採用、非正規やホワイトカラーからの転換など、どのようなバックグラウンドからスタートしても関係ない──というのが藤本氏の考えだ。
不可欠なのは「ホワイトカラーが上位」という古いマインドセットを切り替えることだ。学歴や職歴にかかわらず、現場へのリスペクトを持ち、新たな能力を身に付ける意欲さえあれば、誰でも現場に貢献できる。
実際に、非現場出身者が躍動するケースは生まれている。藤本氏によると、人手不足に悩む北海道の中小製造業で、オフィスワーク経験を持つ30代後半の女性が再就職で生産現場に入り、高性能なNC工作機械(数値制御技術を使用して動作する工作機械)の操作を担っている事例もあるという。
「元デスクワーカー」は武器になるのか 現場で必要なのは学歴や職歴ではない
仕事のライトブルー化が進み、多様な人材が現場に合流する場合、企業の評価制度に影響はあるのか。藤本氏は「デスクワーカー出身者が増えるからといって、それに基づく特別な人事制度への変更はない。それをやる会社は本質を見誤っている」と警鐘を鳴らす。
勤続年数のみで一律に賃金が上がる「年功給」から、職務内容や遂行能力に応じた「職務給」や「職能給」への移行は、現場業務のライトブルー化とは別で、半世紀以上前から言われ続けている日本の経営課題だ。現場力の高い先進的な生産現場では、職務給などへの切り替えがすでに進んでいる。
重要なのは、学歴や従来の出身職種といった属性による待遇のギャップを排し、実質的な貢献度で評価する姿勢だ。例えば、現場で日々データや異常事態に向き合ってきた人材と大卒の技術者が、共通の知識レベルでチームを組み、対等な立場でDX推進に取り組む――そんな環境を作ることが企業には求められるのかもしれない。
「とある製造企業では、生産現場のチームリーダーの名称を『現場サイエンティスト』に変えている。私が理解する限りでこの名称は、日々、現場で異常対応や改善活動、生産革新に挑むリーダー層への深いリスペクトから生まれている。デジタル化を流行として捉えている生産現場とは視点が異なっている」(藤本氏)
出身がどこであろうと、付加価値を生み出し、周囲を助け、明るい現場づくりに貢献する人材を正当に評価する。言葉にすると当たり前に聞こえるかもしれないが、これがあるべき評価制度の姿なのだ。
「ホワイトカラーか、ブルーカラーか」という二項対立の時代は終わりを迎えようとしている。
経営陣やリーダーに求められるのは「現場での勤続年数」を評価することでも、デジタル偏重の「元デスクワーカー優遇」でもない。現場でサイエンスを実践する全ての人材を適切に教育し、評価する姿勢だ。
変化を恐れずマインドセットを切り替えた人材が集う「明るく強い現場」こそが、これからの日本の競争力をけん引していくエンジンとなるはずだ。
特集「変わる『現場リーダー』の条件――ネオ・ブルーカラーの衝撃」
生成AIの急速な進化は、製造や建設などの「現場」における組織の在り方やリーダー像にも影響を与える可能性がある。AI・DXを前提としたオペレーション改革が進む中、かつての経験重視の評価から、リスキリングでデジタル知識を得た人材や、ビジネススキルと現場知見を兼ね備える「ネオ・ブルーカラー」が台頭しつつある。現場を支える人材の多様化に伴い、評価や人事制度はどうあるべきか。特集では、事例や専門家への取材を通じて、これからの「現場リーダーの条件」を考えていく。
第1回:東大名誉教授に聞く「仕事のライトブルー化」(本記事)
第2回(予定):データから見る、生成AIによるキャリア選択への影響
第3回(予定):オーテック
第4回(予定):岡田研磨
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