“現場一筋”の社員がAIツールを開発 「生産性24%アップ」実現した、自動車部品メーカーのDX推進:変わる『現場リーダー』の条件――ネオ・ブルーカラーの衝撃(1/2 ページ)
愛知県小牧市の自動車部品メーカー、オーテックでは、工場一筋のベテラン社員が、AIツールを開発し、生産性向上に貢献した。DX推進、AI活用を推し進める同社では、付加価値額を従業員数で割った労働生産性が24%向上、事務作業時間27%減といった成果を出している。現場の「ブルーワーカー業務」は、AIの普及でどう変わるのか、そして、リーダーに求められるスキルは、どう変化していくのか。
特集「変わる『現場リーダー』の条件――ネオ・ブルーカラーの衝撃」
生成AIの急速な進化は、製造や建設などの「現場」における組織の在り方やリーダー像にも影響を与える可能性がある。AI・DXを前提としたオペレーション改革が進む中、かつての経験重視の評価から、リスキリングでデジタル知識を得た人材や、ビジネススキルと現場知見を兼ね備える「ネオ・ブルーカラー」人材が台頭しつつある。現場を支える人材の多様化に伴い、評価や人事制度はどうあるべきか。特集では、事例や専門家への取材を通じて、これからの「現場リーダーの条件」を考えていく。
第3回:オーテック(本記事)
第4回(予定):岡田研磨
生成AIが定型業務などを代替するようになる中、注目を集めるのがブルーカラーと称される現場職だ。米国ではホワイトカラー業務の人員整理が進む一方で、現場職は人手不足も相まって「需要の増加」「給与の上昇」といった事例が伝えられている。
AIで簡単に“代替できない”現場職がAIスキルを身に付ければ「鬼に金棒」といえるかもしれない──。
愛知県小牧市の自動車部品メーカー、オーテックでは、工場現場しか経験したことのなかった現場リーダーが、自社開発した育成プログラムでAIスキルを身に付け、社内システムを内製。付加価値額を従業員数で割った労働生産性が、導入前と比較して24%増といった成果につながっているという。
同社はどのような考え、手法によってAI導入や社員のリスキリングを進めているのか。AI時代に現場リーダーに求められるものとは。
DX第1段階:「人を増やさず生産性を上げる」ため“脱・手書き”
「現場を知る者がデジタル知識やAIスキルを身に付けることにこそ意義がある」
こう話すのは、同社経営企画課長の小川広佑氏。大学卒業後、アマゾンジャパンに広告営業として入社し、企業のブランディング広告や社内プロジェクトの立ち上げなどを経験。7年間経験を積んだのち、2024年8月に家業であるオーテックに入社し、以来、社内DXや社員のデジタル教育を率いる。
1959年に創業し、約80人の社員を擁する同社。本格的にデジタル推進を始めたのは2021年のこと。当時、自動車業界のEVシフトによって、エンジン・排気系部品メーカーでは将来的な事業縮小が懸念されたことや、コロナ禍で自動車メーカーの生産計画が大きく変動し、需要予測が難しいなどといった課題があった。
月ごとに大きく変動する需要に対応するため、社員の夜勤や残業が増えた。かと言って、そう簡単に人員を増やせるわけではない。「人を増やさず生産性を上げる必要があった」と小川氏は語る。
同社のDXは、外部ツールの導入と、AIツールの内製という形で段階的に進めた。
第1段階は、設備の稼働状況をモニタリングするIoTシステム「iXacs」の導入だった。工場内の全てのプレス機にセンサーを取り付け、どの製品を何個製造できているかをリアルタイムにデータ収集できるようにした。
これまでの手書きによる生産管理を廃止していった結果、データ収集の自動化によって「どの設備が止まりやすいか」「どの製品で生産性が落ちるか」などが見えるようになった。
DX第2段階:外部ツールの限界をAIで内製 業務効率が加速
IoTセンサーによる生産実績の見える化で一定の成果につながった一方、外部ツールだけでは対応しきれない課題もあった。
例えば、加工する際に製品に塗布した油の「洗浄」や、完成品の「梱包」(こんぽう)といった工程。これらの設備は構造上、同じような方法でデータを得ることが難しかった。外部システムを新しく導入しようとすると、数百万円規模の追加投資が必要になるケースもあり、費用対効果の面から導入を見送っていたという。
そこで同社は、DXの第2段階として、生成AIを活用した内製化に取り組んだ。
現場リーダーがAIにコードを書かせながら、簡易センサーやプログラムを自ら制作。アナログ信号をデジタル化し、生産実績を見える化する「AutoMatu(おとまつ)くん」を開発した。
開発した現場リーダーは工業高校を卒業後、約10年間現場一筋で働いてきた社員で、それまでプログラミング経験はほとんどなかったと小川氏は説明する。社内の人材育成プログラムを受け、AI活用の考え方を身に付けて開発を実現した。
AutoMatuくんは、直近1時間以内の1分間の生産数を可視化できる。作業効率を1分単位で把握できるようになったことで、業務の無駄を見直す動きにつながった。
「現場では、(実際のラインとは別の)周辺業務も多く存在する。例えばスイッチを押すために、十数メートル歩行することがある」(小川氏)
この一歩一歩を削減していくことで、生産性を向上させられる──と小川氏は続ける。業務の中の省ける「一歩」「一秒」を見極め、着実に効率化を進めてきた。
AIの活用は事務作業でも進めた。
生産管理の現場ではこれまで、取引先ごとにExcelやPDF、ファクスなどと異なるフォーマットで届く受注データを毎日整理し、社内向けの受注票を作成していた。担当者1人が目視で確認しながら手入力する必要があり、1日当たり約90分を要していたという。
そこでAIスキルを学んだ別の社員が生成AIを使って受注処理システムを開発した。ボタン操作だけで各社から届いた受注データを自動で整理し、社内向けの受注票まで作成できるようになった。作業時間はダウンロード時間も含めて30分以内に短縮。担当者が実際に手を動かす時間は数秒程度になった。
こうした改善の積み重ねにより、2023年の事務作業時間は2019年に比べて27%削減できた。労働生産性は2023年から2026年までに24%向上し、AI導入以前の改善ペースを上回る成果につながっているという。
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